競馬には、昔から「夏は牝馬」という格言があります。それは、文字通り「夏競馬では牝馬を狙え」というものです。
たとえば、夏女の異名を持った代表格である名牝・イクノディクタスの成績をみますと、全9勝のうち、8勝を5月から9月の間に挙げていますので、確かに夏競馬では牝馬が強い傾向にあるかも知れません。
ただ、これは一昔前の話であり、ここ数年では、ジェンティルドンナやアーモンドアイをはじめとする名牝たちが、夏競馬も含め通年で牡馬と互角に渡り合うシーンが多くみられるようになった印象がとても強いです。
そこで今回は、夏競馬において『牝馬が強いのは本当なのか?』をテーマに独自のデータを用いて紹介したいと思います。
また、夏競馬における牝馬の買える条件、牝馬に騎乗した際に強い騎手なども合わせて紹介しますので、ぜひ最後までお楽しみください。
夏競馬は牝馬が強いのは本当なの?

まずは、夏競馬において、過去10年の芝・ダートコース別に牡馬・騙馬と牝馬の勝率を算出しましたので、以下の表をご覧ください。
夏競馬による性別勝利数・勝率一覧(芝コース)
年度 | 芝コース開催数 | 騙馬勝ち数 | 牝馬勝ち数 |
---|---|---|---|
2014~2023年 | 4,357 | 2,256 | 2,101 |
勝率 | ー | 51.8% | 48.2% |
夏競馬による性別勝利数・勝率一覧(ダートコース)
年度 | ダートコース開催数 | 牡馬・騙馬勝ち数 | 牝馬勝ち数 |
---|---|---|---|
2014~2023年 | 2,979 | 1,861 | 1,118 |
勝率 | ー | 62.5% | 37.5% |
表をみますと、芝コースでは、牡馬・騙馬と牝馬による勝率の差は、ほとんどみられませんでした。しかし、ダートコースになると牡馬・騙馬の方が有利な傾向にあります。
次に夏競馬期間以外でも同じく算出してみましたので、以下の表をご覧ください。
夏競馬期間外による性別勝利数・勝率一覧(芝コース)
年度 | 芝コース開催数 | 騙馬勝ち数 | 牝馬勝ち数 |
---|---|---|---|
2014~2023年 | 12,292 | 5,308 | 6,984 |
勝率 | ー | 43.2% | 56.8% |
夏競馬期間外による性別勝利数・勝率一覧(ダートコース)
年度 | ダートコース開催数 | 騙馬勝ち数 | 牝馬勝ち数 |
---|---|---|---|
2014~2023年 | 13,704 | 8,523 | 5,181 |
勝率 | ー | 62.2% | 37.8% |
表をみていただくと、お分かりかと思いますが、ダートコースに関しては、夏競馬期間を問わず、通年でも同じような数字となりました。
しかし、芝コースに関しては、牡馬・騙馬よりも牝馬の方が勝率を上回っています。
それなのになぜ、夏は牝馬が強いとの格言が生まれたのか。
これは、あくまでも個人的な考察ですが、一昔前では、通年よりも夏競馬の開催期間中に牝馬が勝つ傾向が多く見られたため、夏は牝馬が強いとのイメージが根付いたのではないかと思います。
その理由は、夏競馬では多くの有力馬、特に強い牡馬などが、夏の放牧に入るからです。
そのため、全体的に手薄となった牡馬に対し、普段よりも牝馬の勝つシーンがみられたからではないでしょうか。
また、牝馬はパワーを必要とする冬場に成績が落ちることもあるため、相対的にみて、夏の期間だけ良さそうに見えるのも1つの理由かも知れません。
ただ、近年の傾向を踏まえて、夏競馬では、無条件に牝馬を狙っても儲けることはできず、牝馬を過大に評価することは危険です。
特にダートコースでは、夏競馬に限らず年間を通じて、牝馬の優位性が薄いので、条件にも気を付けて評価したいところですね。
夏競馬の牝馬で買える条件とは?

夏競馬において、牝馬が強いと言い切れないことは、先ほどの説明通りです。しかし、夏競馬において牝馬を狙うことは無駄なのでしょうか。
そこで夏競馬でも牝馬が買える条件を見つけましたので、これからお伝えします。
それは、新潟競馬場の名物レースといわれるアイビスサマーダッシュ(G3)です。
2001年に創設された同レースは、第1回のメジロダーリング(当時、牝馬5歳)の優勝を皮切りに過去23回のうち、牝馬が16勝も挙げている牝馬有利の代表的なレースといえます。
また、新潟競馬場の改修工事以降、全ての直線1,000メートルのレースを分析しました。
これまで全605レースが行われ、牡馬が178勝だったのに対して、牝馬は427勝、勝率は約71%となっていますので、新潟の直線1,000メートルコースは、牝馬がとても有利な傾向にあることがお分かりいただけたと思います。
なお、参考までにアイビスサマーダッシュの過去の勝ち馬では、2002年と2004年にカルストンライトオが2勝しています。
また、2008年と2009年にカヤノザクラ、2015年と2016年にはベルカントが連覇し、2021年と2023年は、オールアットワンスが勝利しています。なお、この3頭はいずれも牝馬です。
よって、同レースを2勝以上する馬の観点からみましても、新潟の直線レースでは、牡馬より牝馬を選択した方が賢明だといえそうですね。

夏競馬で牝馬に強い騎手とは?
最後に夏競馬の期間中で牝馬に騎乗した騎手の成績もまとめてみました。
以下の表をご覧ください。
夏競馬期間内の牝馬騎乗での成績
順位 | 騎手名 | 着別度数 | 勝率 | 連対率 | 複勝率 | 単勝 回収率 | 複勝 回収率 |
---|---|---|---|---|---|---|---|
1位 | 横山 武史騎手 | 54-40-42-163/299 | 18.1% | 31.4% | 45.5% | 79 | 87 |
2位 | 川田 将雅騎手 | 42-23-15-42/122 | 34.4% | 53.3% | 65.6% | 116 | 98 |
3位 | 戸崎 圭太騎手 | 36-32-18-120/206 | 17.5% | 33.0% | 41.7% | 82 | 82 |
4位 | 武 豊騎手 | 34-36-29-146/245 | 13.9% | 28.6% | 40.4% | 83 | 89 |
5位 | 松山 弘平騎手 | 34-35-24-194/287 | 11.8% | 24.0% | 32.4% | 61 | 63 |
※2024年4月現在のJRA所属騎手に限り、順位は着別度数順となります。
※表内の着別度数は左から1着-2着-3着-着外/出走レース数です。
表を見ていただくと、横山武史騎手が1位となりましたが、勝率や連対率などについては、2位だった川田将雅騎手の成績がズバ抜けていることが分かります。
また、川田騎手は、単勝・複勝回収率も非常に優れていますので、夏競馬で川田騎手が牝馬に騎乗する際は、是が非でも買いたいところですね。
さらに3位の戸崎圭太騎手や4位のレジェンド・武豊騎手、1位の横山武史騎手を合わせると3人の複勝率は、それぞれ40%超となっていますので、ワイド馬券などの軸にいいかも知れません。
夏は牝馬のまとめ

今回は、夏競馬において『牝馬が強いのは本当なのか?』について紹介しました。
前述した通り『夏は牝馬が強い』という競馬の格言について、過去のデータ上では証明できませんでしたが、昔からの競馬の格言なので、頭の片隅に置いておくのも悪くないかと思います。
ちなみに夏競馬には『夏は芦毛馬が強い』といった格言もあります。
これは、夏の日差しが強い夏競馬において、光と熱の吸収が少ない白い馬体=芦毛が有利なのではないか、といった諸説からきているそうですが、実際には「夏は芦毛が強い!」という格言には、信ぴょう性は全くありません。
ただ、これも夏競馬を楽しむ上で1つの雑学程度で知っておくと、より夏競馬の面白さが増すのではないでしょうか。