今でも日本競馬において、2005年の牝馬戦線は、ラインクラフト、シーザリオ、エアメサイアといった名牝たちの活躍により最強牝馬世代との呼び声高いです。
その中で、あまりにもライバル馬が強すぎたため、その影にひっそりと隠れながらも長く活躍した競走馬がいました。
それが、デアリングハートです。
競走馬名を聞いてピンときた方もいらっしゃるかと思いますが、2020年に史上初となる無敗の三冠牝馬に輝いたデアリングタクトの祖母にあたります。
今回は、超強力なライバルたちの中で苦杯を飲み続けながらも孫がその苦杯を祝杯に変えたことで名牝の地位を確立したデアリングハートについて紹介していきます。
デアリングハートの現役時代の活躍について
| 生年月日 | 2002年3月9日 |
|---|---|
| 性別 | 牝 |
| 父 | サンデーサイレンス |
| 母 | デアリングダンジグ |
| 母父 | Danzig |
| 生産牧場 | 社台ファーム |
| 戦績 | 26戦4勝 |
| 主な勝ち鞍 | 2006年 クイーンステークス(G3) 2006年 府中牝馬ステークス(G3) 200年 府中牝馬ステークス(G3) |
| 獲得賞金 | 2億7,486万2,000円 |
| 登録抹消日 | 2008年2月28日 |
デアリングハートの血統背景

デアリングハートは、父サンデーサイレンスと母デアリングダンジグのもと、2002年3月9日に北海道は千歳の社台ファームにて生まれました。
母のデアリングダンジグは、世界的名種牡馬ダンジグを父に持ち、半姉には、アメリカのG1を3勝したバンカーズレディがいます。
また、アメリカで繋養されていた頃には、G1馬エクトンパークを輩出し、繁殖牝馬としては、すでに成功の域に達していましたので、社台ファームに輸出された時はかなりの期待があったと思われます。
そんな超良血馬として誕生したデアリングハートは、生まれた時から馬体が小さく、現役生活を通しても420kg前後という小柄な馬でした。
そして、無事2歳になると栗東の藤原英昭厩舎に入厩します。
現役時代のデアリングハート
その後、秋の京都でデビュー戦を迎えたデアリングハートは、武幸四郎騎手を背に2番人気で出走するも2着に敗れますが、中2週での未勝利戦を勝ち上がると、次走は阪神ジュベナイルフィリーズ(G1)に挑戦します。
しかし、ここではショウナンパントルの5着に終わりました。
そして、年が明けて3歳になってからも紅梅ステークス(OP)で3着、エルフィンステークス(OP)でも6着となかなか勝ち切れない日が続きます。
そんな中、次走に桜花賞トライアル・フィリーズレビュー(G2)を迎えたデアリングハート。
賞金的にもここで上位に入らないと桜花賞(G1)への出走は叶わない状況でした。
しかも、このレースには、ラインクラフト、エアメサイア、ディアデラノビアといった世代トップクラス同士の対決が予想される中、デアリングハートは7番人気と低評価でした。
レース前から厳しい状況の中、レースでは、好位先行から押し切りを図り、これが術中にはまります。
ただ、最後のゴール前でラインクラフトに差し切られるもエアメサイアとディアデラノビアを振り切る形で2着を確保し、何とか賞金不足を優先出走権で補う形で桜花賞(G1)への出走が決まりました。
ただし、トライアル3着の実績しかないため、人気的には上から10番目と、ここも低評価でしたが、いざ蓋を開けてみると、スタートから絶好の3番手で追走し、最後の直線に入ったところでは、ラインクラフトとの追い比べになります。
最後は競り負けてしまい、さらには後方から追い込んできた1番人気のシーザリオにも交わされ3着となりましたが、10番人気だったことを考えれば、鞍上のミルコ・デムーロ騎手の手腕も光りましたし、堅実な走りをみせたことは間違いありません。
その後、1勝馬ながらも桜花賞3着との実績を掲げたデアリングハートは、次走には通常路線のオークス(G1)ではなく、NHKマイルカップ(G1)を選択します。
これは、桜花賞馬ラインクラフトと同じ道のりとなりました。
ただ、ラインクラフトとは実績が違ったため、ラインクラフトは2番人気、方やデアリングハートは10番人気でレースに臨むことになります。
レースでは、桜花賞の時と逆に今度は、ラインクラフトをマークする形で道中を進めたデアリングハート。最後の府中の広い直線では外に出し、内を突いたラインクラフトを必死に追いかけました。
しかし、ここでは実力の差が大きく出て、差がまったく縮まらず2着惜敗となります。それでも10番人気といった過小評価からの2着は大健闘といえます。
ただ、G1競走を3戦連続でラインクラフトの前に涙をのんだデアリングハートにとっては、辛い春の3歳シーズンとなったことは言うまでもありません。
その後、デアリングハートは休む間もなく走り続け、気が付くと昨年のNHKマイルカップ2着から、1年間も大敗が続きます。
それでも少しずつ復調気配をみせたデアリングハートは、夏の北海道シリーズ開催のクイーンステークス(G3)でG1馬ヤマニンシュクルを1馬身と3/4差で破り、重賞初制覇を飾りました。
ただ、ここで、デアリングハートの元に訃報が入ってきます。それは、宿敵ラインクラフトが放牧先にて、急性心不全により急死したことでした。
このことで何度追いかけても届かなかったラインクラフトには、二度と届くことができなくなってしまったのです。
これを知ってか、デアリングハートは、次走の府中牝馬ステークス(G3)では、ディアデラノビアといった強豪馬に対し、激走をみせ辛勝でしたが重賞2連勝を達成します。
これは、デアリングハート自身が、亡きライバルに弔いの勝利を捧げたいとの執念がそう実らせたのかも知れません。
ただ、その後のデアリングハートは、再びの連敗街道を進みます。
それでも健気に走り続けたデアリングハートは、1年後の府中牝馬ステークスで4番人気ながら、1番人気だったアサヒライジングを一瞬で交わす脚を披露し、同一重賞連覇を達成しました。
ただ、この府中牝馬ステークスがデアリングハートにとって最後の勝利となるのです。
こうして、デビューから小柄な馬体で同世代のライバルだったラインクラフトや故障で早期引退したシーザリオとエアメサイアの分まで長きにわたり走り切ったデアリングハートは、通算成績26戦4勝、うち重賞3勝という結果を残し、ターフに別れを告げました。

デアリングハートとデアリングタクトの関連性について
引退後、生まれ故郷である社台ファームにて繁殖入りしたデアリングハートは、生涯で8頭の仔を産みました。
2024年3月現在、4歳牡馬で1勝クラスのオーサムデアラーと3歳牝馬で未勝利クラスのブレイヴリーが現役競走馬として走っていますが、今のところ、大成した仔を輩出していません。
ただ、キングカメハメハとの間に生まれた第1仔のデアリングバードが、母の血を大きくつなぐことになります。
デアリングバードは、未勝利のまま引退した後、繁殖セールに出され、日高町の長谷川牧場が購入します。
そこでシーザリオの息子・エピファネイアと交配して産まれたのが、あのデアリングタクトです。
デアリングタクトは、2020年の牝馬三冠レースをわずか5戦無敗で制し、日本競馬史上初となる無敗の牝馬三冠馬に輝きました。
これは、祖母のデアリングハートが涙を流し続けた牝馬三冠レースを孫のデアリングタクトが、すべてを拭い去るといった、まさに競馬のロマンともいえる出来事となりました。

デアリングハートのまとめ
その後、デアリングハートは孫の大活躍をみた後、2022年限りで繁殖牝馬を引退しました。
そして、22歳となった現在は社台ファームにて、余生を過ごしています。
しかし、同世代だったラインクラフトやシーザリオ、そして、エアメサイアまでもがすでに他界し、現役時代に凌ぎを削ったライバルの中では、唯一の生き残りとなりました。
現役時代でも早々と引退したライバルたちの分まで競走生活を続け、さらには繁殖牝馬として、功労馬としても最強牝馬世代を最後まで見守る形となったデアリングハート。
もしかすると、2005年の牝馬最強世代を1番に支え続けているのは、デアリングハートなのかも知れませんね。
そんなデアリングハートには、いつまでも長生きをしてほしいと思います。

