3歳馬の頂点を決める「クラシック競走」は、競馬ファンにとって特別な存在です。
しかしこの舞台に立つには、実力だけでは足りません。
出走には事前のクラシック登録が必要で、登録を逃すと200万円もの追加登録料を支払う制度があるのです。
なぜそんな高額な登録料が設けられているのか、そもそもクラシック登録とは何なのか――。
本記事では、クラシック登録の仕組みや追加登録制度の背景、そして200万円を払って夢を掴んだ名馬たちをわかりやすく解説します。
競馬のクラシック登録とは?
クラシック登録とは、3歳限定のG1レースである皐月賞・日本ダービー・菊花賞・桜花賞・オークスに出走するための正式な申込み手続きです。
JRAではこれら5つをまとめて「3歳馬5大特別競走」と呼び、出走するには事前に登録料を支払う義務があります。
この登録を済ませていなければ、いくら強くてもクラシックに出走することはできません。
登録は「レースに出る意思表示」と同時に、クラシックを本気で狙う陣営をふるいにかける意味も持っています。
デビュー直後の2歳秋から始まり、段階的に進める登録制がとられており、毎年この登録が完了した馬たちが春の大舞台を目指していくのです。

3回に分けて支払うクラシック制度の仕組み
クラシック登録は一度で完結するわけではなく、3段階に分けて支払い・申込みを行う制度です。
これをすべて済ませて初めて、クラシック出走の資格を得ることができます。
登録のタイミングと金額は以下の通りです。
登録回数 | 登録時期 | 登録料 | 内容 |
---|---|---|---|
第1回登録 | 2歳10月末 | 1万円 | 最初の登録(多くの馬がここで申込み) |
第2回登録 | 3歳1月末 | 3万円 | 成長を見て追加登録する馬も多い |
第3回登録 | 各レースの約2週間前 | 36万円 | 出走予定馬の最終登録 |
3回の登録料を合計すると40万円になります。
この登録が完了していなければ、どんなに実績を積んでもクラシックには出走できません。
そのため、クラシック登録は“夢の第一歩”として非常に重要な手続きなのです。
追加登録料の200万円とは?
クラシック登録をしていない馬でも、最終登録の段階で「追加登録」を行えば出走が認められる制度があります。
このとき支払うのが追加登録料200万円です。
デビューが遅れた馬や、当初クラシックを目標にしていなかった馬が急成長を見せた場合などに、この制度を利用するケースが見られます。
200万円という金額は高額ですが、それでもクラシックという大舞台に立つチャンスを逃したくないと考える陣営は少なくありません。
追加登録を済ませれば、第1回から登録していた馬と同じ条件で出走が可能になります。
つまり、この制度は「もう一度夢の舞台に挑戦できる救済措置」であり、努力で掴んだ馬たちにとっては希望の扉となる存在なのです。
制度が誕生したきっかけ(オグリキャップの悲劇)
クラシックの追加登録制度が誕生したのは1992年。
きっかけとなったのは、地方競馬から中央に移籍した名馬オグリキャップの存在でした。
1988年、オグリキャップは地方の笠松競馬場から中央入りし、重賞を次々と制覇。
しかし、すでにクラシック登録の期限を過ぎていたため、皐月賞や日本ダービーに出走できませんでした。
ファンの間では「実力があるのに出られないのは不公平だ」と大きな議論を呼びました。
この出来事を教訓に、JRAは1992年から追加登録制度を導入。
「登録を逃した馬にもチャンスを与える」という理念のもと、200万円を支払えば最終登録時に出走できる仕組みが生まれました。
これが、今も続く“夢の救済制度”の始まりです。
追加登録でクラシックを制した名馬たち
追加登録制度が導入されて以降、200万円を支払ってクラシックを制した馬は6頭います。
この中には、のちに日本競馬を代表する名馬となった存在も含まれています。
年度 | レース | 馬名 |
---|---|---|
1999年 | 皐月賞 | テイエムオペラオー |
2002年 | 桜花賞 | アローキャリー |
2002年 | 菊花賞 | ヒシミラクル |
2013年 | オークス | メイショウマンボ |
2014年 | 菊花賞 | トーホウジャッカル |
2015年 | 菊花賞 | キタサンブラック |
特に日本競馬史上初となるグランドスラムを成し遂げたテイエムオペラオーや、後にG1レースを7勝し、種牡馬としても大成するキタサンブラックが未登録だったのは意外な話として知られています。
「200万円が日本競馬の歴史を変えた」と言われるほど、この制度の象徴的な存在となりました。

なぜ登録料が高いのか?
クラシック登録料や追加登録料が高額に設定されているのは、本気でクラシックを狙う陣営だけをふるいにかけるためです。
3歳クラシックは18頭しか出走できない特別な舞台であり、誰でも気軽に登録できてしまうと、出走希望が殺到してしまいます。
そのため、登録料に一定のハードルを設けることで「本気で頂点を狙う馬」だけが登録する仕組みになっているのです。
また、支払われた登録料はJRAの収益にはならず、レース終了後に上位3頭の馬主へ付加賞として還元されます。
配分は1着70%、2着20%、3着10%。
つまり高額な登録料は、競馬界の健全な循環を支える役割も果たしているのです。
優先出走権があっても登録なしでは出走できない
トライアルレースで優先出走権を獲得しても、クラシック登録をしていなければ本番には出走できません。
優先出走権はあくまで「出走順の優先権」であり、登録そのものを省略できる制度ではないのです。
実際の例として、2024年の桜花賞トライアル「フィリーズレビュー」を制したエトヴプレが挙げられます。
この馬はクラシック登録を行っていなかったため、桜花賞に出るためには200万円の追加登録料を支払う必要がありました。
デビュー当初は短距離路線を歩んでいたため、まさかクラシック路線に乗るとは陣営も想定していなかったといわれています。
トライアルを突破しても、登録を済ませていなければ本番に進めない――。
クラシック登録は、それほどまでに重要な“参加資格”なのです。

まとめ:200万円の追加登録料は“夢への切符”
クラシックの追加登録料とは、登録を逃した馬に与えられるもう一度夢を掴むためのチャンスです。
200万円という金額は決して安くありませんが、それでも支払う価値があると信じる陣営が多く存在します。
オグリキャップの教訓から生まれたこの制度は、今も多くの名馬のドラマを生み出してきました。
クラシックを見る際は、馬の実力だけでなく「登録の背景」にも目を向けると、競馬の奥深さがより一層感じられるでしょう。