年間生産頭数が2万頭を超えるアメリカ競馬は、イギリスと並んで300年以上の歴史があります。
そんな世界一ともいえる競馬大国アメリカのG1レース、アメリカンオークス(米G1)に日本馬として初優勝したのが、シーザリオです。
さらにシーザリオの凄いところは、母になっても続きました。まさに日本が誇る名牝といえるでしょう。
そこで今回は、史上初となる日米オークスを制覇し、3頭ものG1馬を輩出しているシーザリオについて紹介していきます。
- シーザリオの血統背景が分かります。
- 現役時代のシーザリオの活躍が分かります。
- シーザリオの引退理由が分かります。
- シーザリオの代表産駒が分かります。
血統背景
父はサンデーサイレンスの代表産駒の1頭に挙げられるスペシャルウィークです。
そのスペシャルウィークは、武豊騎手に初めて”ダービージョッキー”という称号を与え、さらには1999年の天皇賞春・秋(ともにG1)、ジャパンカップ(G1)とG1を4勝した名馬でした。
特にスペシャルウィークが生まれた1995年は、セイウンスカイやキングヘイロー、グラスワンダーにエルコンドルパサーといった名馬たちが揃った年であり、今でも最強世代との呼び声高い世代です。
その中で日本ダービーを制したスペシャルウィークは、最強世代の代表格ともいえるでしょう。
そんな偉大な父とアメリカのG3を勝った実績を持つ母キロフプリミエールとの間にシーザリオは、2002年3月31日に北海道のノーザンファームで誕生しました。
現役時代のシーザリオの戦績
そんなシーザリオは、当然のように前評判もよく、デビュー戦から桁違いの強さを見せつけます。
特に2戦目となった寒竹賞(1勝クラス)では、4番人気ながら、のちの重賞勝ち馬となるアドマイヤフジやダンスインザモアなどを撃破し、その名を一気に上げました。
続く重賞初挑戦となったフラワーカップ(G3)では、断然の1番人気に応える形で2着に2馬身半の快勝。いとも簡単に重賞初制覇を達成し、桜花賞(G1)へと向かいます。
迎えた桜花賞では、主戦の福永祐一騎手が先約のあったラインクラフトに騎乗するため、急遽乗り役が地方競馬通算2,500勝を誇る吉田稔騎手に変更となりますが、これまでの実績を鑑みて堂々の1番人気に支持されます。
なお、2番人気に支持されたのは、ここまで4戦3勝、すでに重賞を2勝していたラインクラフトで、3番人気は武豊騎手騎乗のエアメサイアが続き、2歳女王のショウナンパントルが7番人気でした。
さらには、15年後に孫が無敗の三冠牝馬に輝くことになるデアリングハートが10番人気と豪華すぎるメンバーが終結し、この桜花賞はのちに伝説のレースとして語られるほどの名勝負となります。
レースでは、ラインクラフトとデアリングハートが先行する形で進み、最後の直線では中団から差し込みをみせたシーザリオでしたが、ゴール前でラインクラフトを捕らえずことが出来ず、アタマ差の2着に敗れ、4戦目にして初の敗北を味わうことになりました。
その後、ラインクラフトとデアリングハートが距離適性を考慮し、異例路線となるNHKマイルカップ(G1)に駒を進めたことで、オークスでは主戦の福永騎手に手綱が戻ってきます。
そのオークスでもシーザリオは圧倒的な1番人気に支持されました。
しかし、相手も桜花賞4着のエアメサイアにオークストライアル・フローラステークス(G2)を制して勢いの乗るディアデラノビアなど、いくらラインクラフトやデアリングハートが不在といっても強豪馬が揃ったレースとなります。
ところが、レースでは後方待機となったシーザリオに対して、早め先行策から抜け出したエアメサイアに軍配が上がったかと思われたところ、シーザリオは上がり3ハロン33秒3という、驚異の末脚を披露し、最後はエアメサイアを何とかクビ差に交わしての勝利。
見事、第66代のオークス馬に輝きました。
その後、通常なら夏の休養を経て、秋華賞(G1)に向かうところ、陣営は次走をアメリカンオークス(米G1)と表明します。
これは、日本競馬界に大きな衝撃を与えましたが、アメリカンオークスには前年に桜花賞馬ダンスインザムードが挑むも2着だったため、シーザリオには、ダンスインザムードの分まで大きな期待が寄せられました。
なお、アメリカンオークスとは当時、アメリカにおける3歳牝馬芝路線の春夏シーズンの最高競走として、また各国の3歳有力牝馬が集まる競走としての位置付され、国際招待競走として創設されたレースです。
コース体系は日本のオークスと同じ左回りですが、距離は400m短い2,000mでカリフォルニア州のサンタアニタパーク競馬場で行われました。
初渡米となったシーザリオですが、特に問題もなくレースでは2番人気に支持されます。
なお、地元アメリカ勢の有力馬としては、4戦無敗の芝馬メリョールアインダや前走のG2競走で不利を受けながらもレコード勝ちを収めたスリーディグリーズ。
さらにイタリアの1000ギニーを勝ったシルヴァーカップや同じくイタリアのオークス2着馬ハロウドドリームなど、決して楽な相手ではありません。
しかし、レースでは、最後の直線半ばで先頭に立つと後続馬をどんどん突き放す格好となり、2着馬に4馬身差を付けるレースレコードで圧勝し、日本調教馬としてアメリカG1初勝利となる歴史的快挙を達成しました。
これには、福永騎手とともに『ジャパニーズスーパースター!』との大喝采を浴び、シーザリオは世界的にも注目される1頭となったのです。
シーザリオの現役引退理由
史上初の日米オークス制覇の偉業を達成したシーザリオでしたが、残念なことにレース後、繋靭帯炎を発症していたことが判明します。
シーザリオにとっては、秋の秋華賞(G1)を最大の目標にしていただけに痛恨の出来事となりました。
そして、半年が過ぎ年が明け4歳になると、故障個所が徐々に回復してきたことから、その年から新設されたヴィクトリアマイル(G1)での復帰を目指すことになりました。
ところが、春先の調教中に再度、繋靭帯炎を発症します。
精密検査の結果、炎症が慢性化しているとの診断が下され、完治まで1年以上要することで引退を余儀なくされました。
こうして、日米オークス馬シーザリオは、わずか6戦5勝2着1回という好戦績を残しターフに別れを告げたのです。
シーザリオ産駒の有名馬と現役馬を紹介
日本競馬界に新たな旋風を巻き起こしながら、怪我のため、早期引退となったシーザリオですが、その凄さは母となっても健在でした。
まず、シンボリクリスエスとの間に生まれた第3番仔のエピファネイアは、2013年の菊花賞(G1)と2014年のジャパンカップ(G1)を勝利し、種牡馬入りしてからは、2020年に無敗の三冠牝馬に輝いたデアリングタクトと2021年の年度代表馬エフフォーリアを輩出。
現在、種牡馬ランキングでトップを争う大活躍を見せています。
ちなみにデアリングタクトの母方の祖母に当たるデアリングハートは桜花賞でシーザリオとしのぎを削った馬です。
かつてのライバルの仔が無敗の三冠馬を手にするのも血統の奥深さといえるでしょう。
また、父にキングカメハメハを持つ第6番仔のリオンディーズは、2015年の朝日杯フューチュリティステークス(G1)を勝って種牡馬入り。
産駒には、2024年の天皇賞(春)を制したテーオーロイヤルなど数多くの重賞勝ち馬を輩出しています。
さらにロードカナロアと交配で生まれた第9番仔のサートゥルナーリアも2018年のホープフルステークス(G1)と翌2019年の皐月賞(G1)を制し、2022年に種牡馬入りしました。
サートゥルナーリアの仔は2024年からデビューし、どのような活躍を見せるか待ち遠しいです。
そして、現在、シーザリオの現役産駒としては、6歳の牡馬ルペルカーリア(父モーリス)がオープンクラスで活躍をみせ、シーザリオ最後の産駒となった4歳牝馬のテンペスト(父ロードカナロア)は1勝クラスで奮闘中です。
まとめ
前述の通り、3頭のG1馬を輩出したシーザリオですが、これはダンシングキイ(ダンスパートナー、ダンスインザダーク、ダンスインザムードの母)とハルーワスウィート(ヴィルシーナ、ヴィブロス、シュヴァルグランの母)に並んで日本歴代記録タイとなっています。
さらに、それぞれ異なる種牡馬にて3頭のG1馬を輩出したことは史上初の記録となり、現在もその記録はシーザリオだけの記録です。
しかし、2021年2月27日にロードカナロアの仔を妊娠中に子宮周囲の動脈破裂による出血性ショックのため、19歳でこの世を去りました。
現役時代とまったく引けを取らないほど繁殖牝馬として偉大な功績を残したシーザリオ。
現在、残された2頭の現役馬には、是が非でもG1を勝ってもらい、シーザリオが繁殖牝馬として日本歴代単独トップとなるよう頑張ってほしいと願うばかりです。