「ダービー」と聞いて、真っ先に思い浮かべるのは日本ダービーという方も多いかもしれません。
しかし、この「ダービー」という言葉は、実は世界中の競馬で使われている共通語でもあります。
各国で競馬の最高峰とされるレースに「ダービー」の名が冠されており、それぞれが伝統や特色を持っています。
本記事では、イギリスやアメリカ、アイルランドなど世界で開催されている代表的なダービーを紹介するとともに、日本国内の主なダービーについても解説していきます。
ダービーとは?

「ダービー」とは、3歳馬によって争われる競馬のレースのうち、特に格式の高い一戦を指す言葉です。
この名称の起源は、18世紀末にイギリスで創設された「ダービーステークス(イプソムダービー)」にあります。
以降、このレース形式が世界各国に広まり、それぞれの競馬文化の中で独自に発展していきました。
ダービーはその国における若駒の頂点を決める舞台であり、馬主・調教師・騎手にとっては夢の舞台でもあります。
多くの場合、1頭の競走馬が生涯に一度しか挑戦できないことから、その勝利には特別な価値があるとされています。
世界のダービー一覧

ダービーという名称のレースは、イギリスから始まり、今や世界各国で開催される伝統的な競走となりました。
それぞれの国で競馬の象徴的な存在として定着しており、競走条件や開催時期、距離、馬場などに独自の特色があります。
ここでは、世界的に有名な主要ダービーを国別にご紹介します。
イギリスダービー(イギリス)
イギリスダービーは、正式には「ダービーステークス」と呼ばれ、世界中のダービーの原点とされる格式高いレースです。
1780年にイプソム競馬場で初開催され、以降240年以上にわたり続く伝統を誇ります。毎年5月から6月に開催されるこのレースは、イギリスクラシック三冠(2000ギニー・ダービー・セントレジャー)の一角であり、3歳牡馬および牝馬が出走可能です。
距離は芝約2,420メートルで、直線の起伏やコーナーのきつさから、馬と騎手の総合力が試される舞台として知られています。
世界中の競馬関係者が憧れる「本家ダービー」です。
ケンタッキーダービー(アメリカ)
ケンタッキーダービーは、アメリカ競馬界で最も権威のあるレースのひとつで、「最も偉大な2分間(The Most Exciting Two Minutes in Sports)」とも称される大イベントです。
1875年に創設され、毎年5月の第1土曜日にチャーチルダウンズ競馬場で行われます。
ダート2,000メートルで争われ、アメリカ三冠競走(ケンタッキーダービー・プリークネスS・ベルモントS)の初戦としても知られています。
出走は3歳馬限定で、優勝馬には莫大な賞金とともに、世界中の注目が集まる、まさにアメリカの国民的レースです。
日本でもフォーエバーヤングやクラウンプライドが参戦したことで、近年注目を集めているレースです。
アイリッシュダービー(アイルランド)
アイリッシュダービーは、アイルランド最大の平地競走であり、イギリスダービーと並ぶ格式を誇るクラシックレースです。
1866年に創設され、現在は6月末から7月初頭にかけて、カラ競馬場で芝2,400メートルを舞台に行われます。
出走資格は3歳馬限定で、多くの馬がイギリスダービーからの転戦となります。近年では、イギリスの強豪馬や有力騎手も参戦し、国際色豊かな顔ぶれになることも特徴です。
アイルランドを代表する調教師エイダン・オブライエンの活躍も目立ち、欧州競馬の流れを占う重要な一戦として注目されています。
ジョッケクルブ賞(フランス)
フランスのダービーにあたるジョッケクルブ賞は、1836年に創設された由緒あるレースで、現在はシャンティイ競馬場で開催されています。
通称「フランスダービー」と呼ばれ、毎年6月に芝2,100メートルで行われるのが特徴です。
出走条件は3歳牡馬および牝馬で、クラシック路線の中核を担う一戦となっています。
レース名の「ジョッケクルブ」はフランス騎手クラブを意味し、格式と伝統を象徴しています。
日本でも有名なモンジューやシンエンペラーの全姉に当たるソットサスもこのレースを優勝していました。
ドイチェスダービー(ドイツ)
ドイチェスダービーは、1869年に創設されたドイツ競馬の最高峰レースで、同国におけるクラシック三冠のひとつです。
毎年7月にハンブルクのホルステン競馬場で芝2,400メートルを舞台に開催され、3歳牡馬および牝馬が出走対象となります。
近年では欧州の有力馬の参戦も見られ、ドイツ血統の評価を高める重要なレースとして、国際的にも注目を集めています。
ちなみに、2024年のジャパンカップに参戦したファンタスティックムーンもドイツダービー馬でした。
UAEダービー(UAE)
UAEダービーは、アラブ首長国連邦のメイダン競馬場で開催される国際的なダート競走で、2000年に創設されました。
距離はダート1,900メートルで、3歳馬(北半球産)および南半球産の4歳馬も出走可能とする独特の条件を持っています。
開催時期は毎年3月末、ドバイワールドカップデーの一環として実施され、世界各国から有力馬が参戦します。
アメリカのケンタッキーダービー出走に向けた「ロード・トゥ・ケンタッキーダービー」ポイント対象レースにも指定されており、中東とアメリカをつなぐ重要な存在となっています。
近年は日本馬の活躍が目打座敷く、2022年のクラウンプライドを皮切りに、2025年時点で同レースを4連勝しています。
サウジダービー(サウジアラビア)
サウジダービーは、2020年に創設された比較的新しいレースながら、世界的に注目を集めるダート競走です。
開催地はキングアブドゥルアジーズ競馬場で、距離はダート1,600メートルです。
毎年2月に実施される「サウジカップデー」の主要レースの一つとして位置付けられています。
出走資格は3歳馬限定で、UAEダービー同様、北半球と南半球産馬の出走が可能です。
高額賞金を誇ることから、アメリカや日本をはじめとした各国の有力馬が集結し、ケンタッキーダービー前哨戦としても意識されています。国際色豊かな若駒の戦いが魅力です。
日本馬も2025年時点で3頭が優勝しており、レース相性のいいレースとして知られています。
香港ダービー(香港)
香港ダービーは、香港ジョッキークラブが主催する4歳馬限定の格式ある競走で、毎年3月にシャティン競馬場で行われます。
距離は芝2,000メートルで、香港のクラシック三冠レース(クラシックマイル、クラシックカップ、香港ダービー)の最終戦にあたります。
香港では2歳・3歳戦が存在しないため、4歳馬による香港ダービーが事実上の「クラシック頂上決戦」として位置付けられています。
地元馬主にとっては最大の目標とされ、毎年高額で輸入された良血馬が激突します。
日本でも馴染み深いロマンチックウォリアーやヴォイッジバブル、ワーザーも香港ダービー馬でした。
日本で開催される主なダービー

日本において「ダービー」といえば東京優駿が代表格ですが、その他にも全国各地でダービーと名の付くレースが数多く存在します。
JRAだけでなく、地方競馬でもその土地ごとの頂点を決める重要な競走として定着しており、それぞれに個性と伝統があります。
ここでは、中央競馬と地方競馬を含めた主な日本のダービーを紹介します。
東京優駿(日本ダービー)
東京優駿は「日本ダービー」として親しまれており、JRAが主催する3歳馬限定のクラシックレースです。
1932年に創設され、毎年5月下旬に東京競馬場の芝2,400メートルで行われます。
皐月賞・菊花賞と並ぶ三冠競走のひとつで、特にダービー制覇は競馬関係者にとって最高の名誉とされています。
生涯に一度しか出走できない夢の舞台であり、全国の競馬ファンから熱い注目を集めます。
勝ち馬には未来の種牡馬や繁殖牝馬としての価値が加わり、その影響力はレースの枠を超えて広がっています。
東京ダービー
東京ダービーは、南関東競馬を代表する3歳馬限定の重賞レースで、毎年6月に大井競馬場で行われます。
南関クラシック三冠(羽田盃・東京ダービー・ジャパンダートクラシック)の第二戦にあたり、地方競馬における“夢の舞台”として位置づけられています。
距離はダート2,000メートルで、長丁場を乗り切るスタミナと瞬発力が要求されます。
勝ち馬はその後、中央馬との交流戦や古馬戦線でも活躍することが多く、地方所属馬にとっては出世レースのひとつです。
南関競馬ファンにとっても、特別な思い入れを持たれる伝統ある一戦です。

ジャパンダートクラシック
ジャパンダートクラシックは、2024年に創設された新たなダート三冠競走の一戦であり、中央・地方交流の3歳ダート王決定戦として位置付けられています。
旧「ジャパンダートダービー」を発展的に継承する形で、大井競馬場のダート2,000メートルを舞台に行われます。
地方所属馬とJRA所属馬が激突する構図が特徴で、未来のダート界を担う若駒たちが一堂に会します。
日本ダービーの“ダート版”とも言えるレースであり、創設初年度から大きな話題を呼びました。
リニューアル後の第一回開催の勝ち馬は、これまで破竹の勢いで活躍したフォーエバーヤングです。
今後、どの馬がこのレースを勝利するのが注目が高まります。
地方競馬には独自のダービーがある
地方競馬各地にも、中央の東京優駿や世界のダービーを倣った独自のダービーがが多数存在します。
たとえば岩手競馬の「東北優駿」、高知競馬の「高知優駿」など、それぞれの開催地で3歳馬の頂点を競うレースとして定着しています。
また、帯広競馬では「ばんえいダービー」が行われ、ばんえい競馬独自のダービーとして知られます。
これらの地方ダービーは、地元の関係者やファンにとって特別な存在であり、地方競馬の魅力やローカル文化が色濃く反映された競走といえます。
世界のダービー:まとめ

「ダービー」という言葉は、単なる競馬のレース名ではなく、各国・各地域でその年の最強3歳馬を決める特別な一戦として位置づけられています。
イギリスやアメリカをはじめ、世界中でそれぞれの伝統と特色を持ったダービーが開催されており、日本においても東京優駿や東京ダービーを中心に、数多くの名勝負が繰り広げられています。
ダービーは、出走馬・関係者・ファンすべてにとって“夢の舞台”。その重みとロマンは、競馬の醍醐味を象徴する存在といえるでしょう。