競馬ファンなら「短期免許」という言葉を一度は耳にしたことがあるのではないでしょうか。
これは、日本の競馬Aに海外の騎手が一定期間限定で騎乗できるように発行される特別な免許のことを指します。
ここでは、この「短期免許」について、その制度の概要や取得の条件、免許を取得した騎手がどのように活躍しているのかなどを詳しく解説していきます。
競馬の短期免許とは?

短期免許とは、海外で活動する外国人騎手が、一定の条件を満たすことで日本の中央競馬で期間限定で騎乗できる制度です。
日本の騎手免許は基本的に日本人向けに制度が整えられていますが、国際交流や競馬のレベル向上を目的として、1994年にこの短期免許制度がスタートしました。
G1をはじめとしたビッグレースで、R.ムーア騎手やJ.モレイラ騎手といった世界的な名手が来日し、大活躍する光景は、今や春や秋の風物詩ともいえるでしょう。
ちなみに、現在通年で活躍しているC.ルメール騎手とM.デムーロ騎手はもともと短期免許で日本の競馬に騎乗していましたが、2015年にJRAの通年免許試験に合格し、JRAのジョッキーとして活躍しています。
短期免許の取得条件

海外の騎手であれば誰でも日本で騎乗できるというわけではありません。
短期免許の取得には、JRAが定めた明確な基準が存在しており、一定以上の実績や信頼がなければ申請しても許可されません。
特に2025年度のJRAガイドラインでは、短期免許を取得するために満たすべき条件が細かく規定されており、実力あるトップジョッキーに限って門戸が開かれているのが実情です。
その基準は大きく分けて以下の3つのルートに分類されています。
ここからは、3つの取得条件に付いて解説します。
①世界のトップ騎手と証明されていること
騎手としての実績が非常に高いと認められることが第一条件です。各国によって条件は異なりますが、例えば下記のような条件があります。
- 北米・イギリス・アイルランド・香港などの主要国で、過去2年のうちどちらかで「リーディング上位(5位以内、または3位以内など)」の成績を収めていること。
- その他の国・地域の騎手は、過去2年のうちいずれかで国内リーディング1位であると同時に、G1競走での勝利実績も必要。
つまり「自国のトップ」+「国際舞台での勝利」がセットで求められます。
②G1レースでの勝利実績が豊富であること
次に重要なのがG1勝利歴です。以下のいずれかに該当する場合も申請可能です。
- 世界的なG1競走(JRA指定の国際競走など)で2勝以上
- IFHA(国際競馬統括機関連盟)が選ぶ「世界のトップ100GⅠ競走」の中で、50位以内のレースを勝利
- JRAのG1競走で勝利経験がある
女性騎手の場合は、過去2年間でG1競走を1勝以上していれば申請資格ありとされています。
③特別イベントでの好成績
以下のようなケースでも申請の対象になることがあります。
- 「ワールドオールスタージョッキーズ」で騎手表彰5位以内
- 所属する国で過去2年のうちのいずれかでリーディング3位以内
このルートは実績が高く評価されていることを示す一方で、直接的なG1勝利歴がなくても門戸が開かれている点が特徴です。
同時に来日できる人数にも制限あり
短期免許には「枠」があります。
- 平地競走騎手:最大5名まで
- 障害競走騎手:最大2名まで(東西それぞれ1名以内)
同時期にこれ以上の申請があった場合は、成績などを考慮して選考が行われる仕組みになっています。
さらに、申請は「希望免許開始日の60日前から受付開始」、締切は毎週木曜正午となっており、希望日程に合わせて計画的な準備が必要です。
JRA側も「安易な来日」は許さない姿勢でいる
申請者が以下のような経歴を持つ場合、免許が交付されないこともあります。
- 過去に薬物や不正行為などの問題があった
- 正当な理由がないまま免許期間の変更・取り消しを繰り返した
JRAとしても制度の信頼性を守るために、厳しい審査を行っています。
つまり「実績があるから誰でも来られる」わけではなく、人間性や誠実な対応も求められるということです。
短期免許で来日した有名騎手たち

これまで短期免許で来日した騎手の中には、世界的に有名な名手が数多くいます。
- C.ルメール騎手:短期免許での活躍が評価され、最終的には日本の騎手免許を取得し、今ではJRAのトップジョッキーとして君臨しています。
- J.モレイラ騎手:香港を拠点にしながら、JRAの短期免許でも多くの重賞を勝利しています。
- R.ムーア騎手:世界最高峰の名手の一人で、日本ではジャパンカップや有馬記念などでも騎乗しました。
短期免許制度があったからこそ、こうした世界レベルのジョッキーの技術に触れることができ、競馬ファンにとっても貴重な経験となっています。
まとめ:短期免許制度の意義と今後の展望

短期免許制度は、日本競馬が国際的なステージへと成長していくうえで、欠かすことのできない重要な仕組みです。
この制度のおかげで、世界各国のトップジョッキーがJRAのレースに参戦し、日本の騎手や関係者との技術交流が活性化しています。
その結果、レースレベルの向上はもちろんのこと、競馬ファンにとっても「海外の名手が出るなら見てみよう」といった注目度アップにつながり、競馬そのものの魅力を押し上げる原動力となっています。
実際に、C.ルメール騎手やM.デムーロ騎手のように短期免許で来日し、その後日本に定着してJRAの長期免許を取得するケースも出てきています。
今後は、こうした実績ある外国人騎手が、よりスムーズに長期滞在・活動できるよう、制度のさらなる柔軟化やステップアップ制度の整備が求められるかもしれません。
短期免許は、単なる「期間限定の許可証」ではなく、日本競馬と世界をつなぐ架け橋のような存在です。
厳しい条件を満たして来日する騎手たちは、いずれも実力・実績ともに世界トップクラス。そんな一流の騎手たちが日本の競馬で見せる走りは、ファンにとっても貴重な体験となるはずです。
今後もこの制度を通じて、世界とつながる日本競馬の未来に注目していきたいですね。