この記事では引き続き、短期騎手免許にて来日している海外ジョッキーの方々を紹介します。
第4回目となる今回は、ドイツ競馬で活躍するR(レネ).ピーヒュレク騎手(以下、ピーヒュレク騎手)です。
ただ、その前にドイツ競馬の実態について、少し知っていただきたいと思います。
200年以上の歴史を持ち、過去には、デインドリームやノヴェリストといった名馬などが誕生しているドイツ競馬。
しかし、近年の年間売上は約1,400億円でした。これは地方・大井競馬より若干少ないくらいの数字です。
ちなみにJRAは3.3兆円、香港が2.4兆円で競馬の本場イギリスやフランスでは1.5兆円前後と格段の差があることに驚いてしまいます。
なぜ、200年もの歴史あるドイツ競馬がここまで弱体化してしまったのか。その理由の1つが、売上よりも賞金が高いためといわれています。
一例ですが、ドイツでもっとも売上高があるといわれているドイツダービー(独G1)でさえ、4,000万円ほどの売上しかなく、優勝賞金は4,000万円以上です。年始における京都金杯(G3)の2024年の売り上げが65億6,342万円なので雲泥の差ですし、開催すればするだけ赤字になるのは火を見るより明らかです。
また、2つ目の理由は、収入源である馬券をブックメーカーが販売しているため、開催者側には馬券の売り上げがほとんど入ってこないためです。
さらにサラブレッドの年間生産頭数も800頭ほどで、これは日本の約10分の1です。こうした背景からドイツ競馬の弱体化、衰退に繋がっているといわれています。
ただ、ドイツは2,400mといった中距離に特化したスタミナとスピードのあるサラブレッドを生産しているだけあって、世界最高峰のレース、凱旋門賞(仏G1)とキングジョージ6世&クイーンエリザベスS(英G1)のレコード記録はドイツ生産馬が保持していますので、歴史あるドイツ競馬の再興に期待したいです。
少し前置きが長くなってしまいましたが、そのような苦しい状況下のドイツ競馬で一線級の活躍を見せるピーヒュレク騎手とは、どのような騎手なのでしょうか。
- R.ピーヒュレク騎手の生年月日や経歴が分かります。
- R.ピーヒュレク騎手の海外における主な活躍が分かります。
- R.ピーヒュレク騎手の日本における実績が分かります。
R.ピーヒュレク騎手とは?
- 国籍 ドイツ
- 出身地 ドイツ
- 生年月日 1987年4月24日
- 身長 169cm
- 体重 54kg
ピーヒュレク騎手は、1987年4月24日にドイツで生まれ、現在36歳の中堅騎手です。2004年にドイツで騎手免許を取得しました。
身長169センチメートル、体重54kgとジョッキーの中では、かなりの高身長といえます。
日本人騎手なら、武豊騎手に藤岡康太騎手、坂井瑠星騎手らとほぼ同じくらいです。
なお、競馬において体重には、厳密なルールが存在しますが、身長に関しては、特にルールが設けているわけではありません。
ただし、身長が高くなれば、その分自然と体重は増えやすくなるものです。
例えば、体重50キロの騎手と比べて、100kgの騎手では、どちらが馬にとって負担が大きいか分かりますよね。
そのため、昔から騎手は少しでも負担重量を減らすために身長は低くなければならないとされていました。
しかし、身長と勝率は比例するわけでもなく、どの身長の騎手も勝ち星を挙げていますので、特に身長の高低差は影響がないと思われます。
それでも身長が高い騎手は、その分パワーがあり、長い手足で馬の操縦や制御がしやすいメリットがあるものの、逆に体重調整が厳しい面があるといえます。
そのため、高身長の騎手はレースに出走するため限界以上に体重を落とすこともあり、メリットであるパワーを失ってしまうこともあり得ますので、やはり一般的には身長は低い方が有利だといえそうです。
そう考えると、ほぼ同じ身長の武豊騎手は、約35年も体重の維持管理を行い、日本のトップジョッキーに君臨し続けることは、記録以上に凄いことだと思います。
そんなレジェンド・武豊騎手に対して、ピーヒュレク騎手は、2021年の凱旋門賞のレース前、恐れ多く声を掛けられなかったそうです。
それは、武豊騎手を”世界のレジェンド”と仰いでいるためだといいます。
また、ピーヒュレク騎手は、2014年のジャパンC(G1)で6着だったアイヴァンホウ、翌2015年のジャパンCで18着だったイトウの調教(攻め馬)騎手として、2年連続で来日しています。
そのレースで両馬に騎乗し、のちにJRA短期免許も取得、ドイツでは4度のリーディングジョッキーに輝いた名手フィリップ・ミナリク元騎手とは親友だったピーヒュレク騎手。
そのミナリク騎手は、2020年7月に起きた落馬事故で大ケガを負ってしまい騎手生命を絶たれ、引退されています。
そんなミナリク騎手の思いを受けたピーヒュレク騎手は、大レースで必ずミナリク騎手からプレゼントされた鞭を使用するといいます。
もちろん、2021年の凱旋門賞で大輪を咲かせた時も、その鞭を使用し、ミナリク元騎手が後押ししてくれた。と後に語るほど、とても真面目で紳士な方だと思います。
もしかすると、ピーヒュレク騎手は、今回の短期騎手免許で来日した5人の海外ジョッキーの中で1番日本に縁がある騎手かも知れません。
なお、今回の身元引受人は美浦の栗田徹調教師で契約馬主は有限会社シルクレーシングとなっています。
これまでの実績や主な勝鞍は?
近年の成績は、2021年が42勝でドイツリーディング5位。2022年は44勝でドイツリーディング5位でした。
そして、2023年には、ファンタスティックムーンとのコンビでドイツダービー(独G1)を初勝利するなどの活躍で56勝をマークし、ドイツリーディング2位という結果を残しました。
この数字を見てもわかるようにピーヒュレク騎手は、ドイツのトップジョッキーといっても過言ではありません。
そして、ピーヒュレク騎手といえば、2021年の凱旋門賞で単勝オッズ110倍の13番人気だったトルカータータッソを勝利に導いたことでしょう。
このレースには、1番人気だったハリケーンレーンやディープインパクトの愛娘でイギリス・アイルランドの両オークス(それぞれG1)を制したスノーフォールなど世界の超強豪が集結したレースの中での勝利でした。
しかもドイツ国籍を持つ騎手で凱旋門賞を勝利したのは、2011年にデインドリームで勝利したアンドラシュ・シュタルケ騎手以来、10年ぶり史上2人目の快挙となりました。
日本での実績は?
ピーヒュレク騎手は以前、来日した際、日本の印象について「とても美しい国で、レース場もその外も整然としていますね」と好印象なコメントを残しています。
さらに海外ジョッキーへの定番「好きな日本の食事は?」との質問に対し、多くの騎手は、寿司やうどん、焼肉などの答えが多いそうですが、何とピーヒュレク騎手の答えは「味噌汁」でした。
そんな少しお茶目なピーヒュレク騎手ですが、1月6日に中山で初騎乗して以来、なかなか勝つことはできませんでしたが、1月14日の中山12Rの4歳上1勝クラスにて7番人気のロゼル(牡4)を勝利に導き、日本で待望の初勝利を挙げました。
そして、2024年2月4日に行われたきさらぎ賞(G3)では1番人気に支持されたビザンチンドリームに騎乗し、大外ブン回しの競馬で豪快に勝利し、日本における初重賞制覇を成し遂げました!
騎乗は非常に大味で馬の力量による勝利というイメージが強いですが、重賞制覇したのは事実です。
これまで、凱旋門賞をはじめバーデン大賞(独G1)などのG1を7勝、G2は11勝、G3も14勝という実績を持ち、今回、短期騎手免許として初来日した実力が発揮されたことでしょう。
この重賞勝利を弾みに、残り1カ月間も活躍してほしいです。
緊急帰国
2024年2月上旬に行われたきさらぎ賞を制したことで今後の活躍にも期待がかかったピーヒュレク騎手でしたが、同年2月18日を以て短期免許の取り消しが発表されました。
理由は一身上の都合で本人の申請だそうです。
せっかく活躍の兆しを見せていたので残念ですし、日本ではきさらぎ賞こそ勝利しましたがこれまでの外国人騎手と比較するとそこまで大きな活躍を見せていなかったことから今後日本競馬に参戦する可能性は低くなると思います。
まとめ
前回は短期騎手免許の定義などについてお伝えしましたが、その短期騎手免許からJRA通年免許を取得したのが、M(ミルコ).デムーロ騎手とC(クリストフ).ルメール騎手です。
今回、来日した5名の海外ジョッキーが、先人のデムーロ騎手やルメール騎手のようにJRA通年免許を取得する日が来れば、もっと日本競馬が盛り上がりそうです。
特に今回ご紹介したドイツのトップジョッキー・ピーヒュレク騎手には、デムーロ騎手が母国イタリア競馬の存続を考え、日本の通年騎手免許を取得したといわれているように、この先ドイツ競馬の存続が危機的状況に陥った場合も考え、日本での通年騎手免許取得も視野に入れてほしいと切望しますね。
ただ、2月中旬に本人の意向で短期免許を繰り上げて取り消しているので今後日本で騎乗する可能性は低いでしょう。
きさらぎ賞の勝利インタビューの内容を見る限りいい人だと思うので、母国ドイツや欧州競馬での活躍に期待したいです。