競馬中継やパドック解説で耳にすることが多い言葉のひとつに「落馬」があります。
しかし、なんとなく危険なイメージはあっても、実際にどのような状態を指すのか、レースや馬券にどんな影響があるのかまで理解している人は意外と多くありません。
落馬は単に騎手が馬から落ちるだけではなく、競走中止の扱い、安全上のルール、払戻しの仕組みに関わる非常に重要な出来事です。
初心者ほど誤解しやすい「落馬=返還」という思い込みも含めて、正しく知っておくことで競馬観戦や馬券購入がより安心して楽しめるようになります。
この記事では落馬の意味や原因、馬券の扱い、安全対策までわかりやすく解説していきます。
落馬とは?競馬で使われる意味
競馬における落馬とは、レース中に騎手が馬から落ちてしまうことを指します。
馬のつまずきや接触、バランスの乱れなど原因はさまざまですが、発生した時点でその馬は競走を続行できません。
レースの進行だけでなく、馬券の結果にも大きく関わるため、落馬の仕組みを理解しておくことが大切です。
次に、落馬が起きる主な原因について詳しく解説します。
落馬の基本的な定義
落馬とは、レース中に騎手が馬から振り落とされたり、バランスを崩して地面に落ちてしまう状態を指します。
競走馬は時速60km近いスピードで走っており、わずかなつまずきや接触がきっかけで落馬に繋がることがあります。
騎手の足は鐙にかけられているため、落下時には頭から地面に向かう姿勢になりやすく、非常に危険な出来事です。
落馬が発生した場合、その馬は競走を続けることができず、競走中止扱いとなります。
レース結果や払い戻しにも関係してくるため、競馬を楽しむうえで落馬の基本的な理解は重要です。
観戦ファンが誤解しやすいポイント
落馬が起きると「馬券は返還される」と思ってしまう人は少なくありません。
しかし実際には、落馬した時点でその馬は競走中止となるため、単勝や馬連などの馬券は基本的に不的中扱いとなります。
返還となるのは「入線した馬が少なすぎる場合」や「スタート前の落馬で競走除外になった場合」など、限られたケースのみです。
つまり落馬=返金ではなく、払戻ルールは状況によって異なるため注意が必要です。
この誤解をなくすと、レース中のアクシデントにも冷静に対応できるようになります。
落馬が起きる主な原因
落馬は偶然の一言で片付けられるものではなく、いくつかの要因が重なって発生するケースが多いです。
馬の身体的なトラブルや気性面の問題、他馬との接触、さらに馬具の異常など、さまざまなリスクがレース中には潜んでいます。
まずは、落馬が起こりやすい具体的な原因について順番に見ていきましょう。
馬のつまずき・故障・気性による急停止
落馬の原因として最も多いのが、馬の足元に関わるトラブルです。
レース中の高速走行中にわずかなつまずきや滑りが起きると、騎手はバランスを崩しやすく落馬に直結します。
また、競走馬はレースで興奮状態にあるため、気性の荒い馬が急に止まったり外へ逃避したりすることもあり、その衝撃で騎手が振られることがあります。
故障によって急激にスピードを落とした際も同様で、予兆なく体勢が変わるため回避が難しいのが現実です。
こうした馬側の予測不能な動きは、落馬の大きな要因となっています。
他馬との接触・進路妨害・巻き込まれ事故
落馬は自分の騎乗馬が原因ではなく、他馬の動きに巻き込まれて起こるケースも少なくありません。
密集した馬群の中で接触が起きたり、前の馬が斜行して進路をふさいだりすると、バランスを失って落馬につながることがあります。
特にコーナーで隊列が詰まった際や、狭いスペースを狙ってポジションを上げる場面ではリスクが高まります。
さらに、前方の馬が転倒した場合、後続馬が回避できず連鎖的に落馬が発生することもあります。
ひとつのミスやアクシデントが複数頭の事故につながりやすい点も、競走の難しさと危険性を象徴しています。
落馬が発生した時のルール
落馬はレース中に起きる重大なアクシデントであり、発生した瞬間にその馬の扱いは大きく変わります。
どの段階で落馬したかによってレースの続行可否や順位の扱いが異なり、競走中止や除外、到達順位確定など細かなルールが存在します。
まずは落馬が起きた際の基本的な扱いから解説していきます。
落馬した馬は競走中止となりレースに復帰できない
レース中に騎手が落馬した場合、その馬は例外なく「競走中止」となり、レースへ復帰することはできません。
たとえ馬の故障がなく走り続けていても、騎手が乗っていない状態では競走馬として扱われず、順位や払戻しの対象には含まれません。
安全確保の観点から、落馬後に騎手が再び馬に乗ってレースを続ける行為は禁止されており、競技の混乱やさらなる事故を防止するための重要なルールです。
落馬はレース全体に影響を及ぼす可能性があるため、発生した時点で迅速に状況が判断され、競走中止が宣言されます。
落馬した地点での再騎乗は禁止
かつて日本の競馬では、落馬後に騎手が再騎乗し、レースを続行する場面が見られることがありました。
しかし安全面の観点から、2017年より「落馬後の再騎乗は禁止」というルールが導入されました。
これは騎手本人の負傷リスクを軽減することに加え、落馬の衝撃で馬が動揺した状態で競走を続けることで、新たな事故を招く危険を防ぐための措置です。
また、再騎乗を認めることでレース進行が混乱する可能性も考慮されており、現在は落馬した時点で競走中止となることが原則です。
このルールは騎手と馬の安全を守り、競馬全体のリスクを減らす重要な取り組みとして定着しています。
スタート前/入線後の落馬は扱いが異なる
落馬といっても、いつ起きたかによって扱いは大きく異なります。
スタート前に騎手が落馬した場合は、その後に再騎乗でき競走能力があると判断されればレースに参加できますが、騎手や馬がダメージを負って競走続行が難しい場合は「競走除外」となり、この場合は馬券が返還されます。
一方、ゴール入線後の落馬はレースの結果には影響せず、落馬が進路妨害を伴っていない限り、到達順位どおりに確定し払い戻しも行われます。
つまり、落馬のタイミングによって競走可否や馬券への影響が変わることを理解しておく必要があります。

落馬と馬券の払戻しルール
落馬はレース結果だけでなく、馬券の払戻しにも大きく関係します。
しかし「落馬したら返還される」というイメージは正確ではなく、入線した頭数や落馬したタイミングによって扱いが変わります。
誤解が多いポイントでもあるため、ここからは落馬時の払戻しルールを状況別にわかりやすく整理していきます。
全頭落馬した場合
極めてまれですが、全ての出走馬が落馬などのアクシデントにより競走を続行できない場合があります。
このケースでは入線馬が存在しないため、順位の確定が不可能となり、すべての式別の馬券が返還されます。
単勝、複勝、馬連、ワイド、3連系などすべてが対象となるため、購入者は払い戻しを受け取れる形になります。
落馬の多重発生は安全確保が最優先となるため迅速にレースが中止されますが、馬券の扱いとしては最もシンプルなケースといえます。
1頭・2頭のみ入線した場合の払戻しと返還の違い
入線馬が1頭または2頭しかいない場合は、払戻し対象となる馬券の種類が大きく変わります。
1頭しか入線しなかった場合は、単勝と複勝のみ的中扱いとなり、それ以外の枠連・馬連・ワイド・馬単・3連系はすべて返還されます。
一方、2頭が入線した場合は、単勝・複勝・枠連・馬連・馬単・ワイドは払戻しの対象となり、3連複と3連単のみ返還されます。
入線頭数が少なすぎると、特定の券種で勝敗が成立しなくなるため、その種別の馬券のみ返還が行われる仕組みです。
3頭入線で全式別払戻しとなる
入線馬が3頭そろった場合は、すべての券種で勝敗が成立するため、単勝・複勝から枠連・馬連・ワイド・馬単・3連複・3連単まで全式別で払戻しが行われます。
たとえ多重落馬などのアクシデントが発生していたとしても、3頭がゴールした時点でレースの順位は確定する扱いとなります。
つまり、馬券の結果と返還の有無を左右するのは「落馬があったかどうか」ではなく「何頭が入線したか」という点です。
このルールを理解しておくことで、予想外の展開が起きた際にも冷静に払い戻しの確認ができるようになります。
落馬による危険性と事故の歴史
落馬はレース結果や馬券の扱いだけでなく、騎手や馬の生命に大きな危険を伴う深刻なアクシデントです。
競馬の歴史を振り返ると、落馬によって重傷を負ったり、騎手生命を絶たれたり、命を落とした例も数多く存在します。
ここからは、落馬の危険性と競馬史に残る事故例について触れ、どれほど重大なリスクをはらんでいるのかを見ていきます。
落馬は騎手の重傷・死亡に繋がる可能性がある
落馬は単なるハプニングではなく、騎手にとっては生死を分ける危険を伴う重大事故です。
競走馬は時速60km前後で走行しており、鐙から足が外れた状態で地面に投げ出されると、頭部や首・脊椎を強打する危険が高まります。
さらに、落ちた直後に後続馬が避けきれずに接触したり踏まれたりするケースもあり、衝撃は非常に深刻なものになります。
実際、落馬によって重傷を負って復帰できなくなる騎手や、命を落としてしまう悲しい事故も歴史上繰り返されています。
競馬が安全対策を重視する理由は、この深刻なリスクを減らすためにほかなりません。
競馬史でも多くの騎手が落馬事故により殉職・引退を余儀なくされてきた
競馬の歴史を振り返ると、落馬事故によって尊い命が失われたり、騎手としてのキャリアを断念せざるを得なかった例が数多く存在します。
特に昭和期から平成初期にかけては安全装具や医療体制が現在ほど整っておらず、落馬がそのまま致命傷につながるケースも珍しくありませんでした。
近年になっても、落馬が原因で重傷を負い引退に追い込まれた騎手や、命を落とす痛ましい事故は発生しています。
こうした背景があるからこそ、安全対策の進化は競馬において避けて通れないテーマとなっており、選手と馬を守るための取り組みが継続的に進められています。
落馬のまとめ
競馬では落馬の危険を少しでも減らすために、安全対策が年々進化しています。
まずヘルメットやプロテクターベストの改良が進み、衝撃吸収性や装着性が向上したことで騎手の身体を守る力が強化されました。
さらに、コース設計や障害物の形状の見直し、騎手への安全教育の徹底により、事故を未然に防ぐ取り組みも行われています。
加えて、2017年からは落馬後の再騎乗を禁止するルールが導入され、二次事故防止と騎手・馬の保護が徹底されるようになりました。
こうした対策の積み重ねが、競馬をより安全なスポーツへと近づけています。
競馬はスピードと駆け引きが魅力のスポーツであり、落馬のリスクを完全にゼロにすることはできません。
しかし、その危険性を理解し、落馬時のルールや払戻しの仕組みを知っておくことで、観戦する側も冷静にレースと向き合えるようになります。
そして何より、騎手や馬を守るための安全対策が進化し続けていることは、競馬が〝より安心して楽しめる競技〟へ向かっている証でもあります。
これからも競馬界全体の努力によって、安全性とエンターテインメントが両立するスポーツとして発展していくことが期待されます。

