競走馬の「走法」は、その馬のパフォーマンスや適性を左右する重要な要素です。
中でもよく知られているのが「ピッチ走法」と「ストライド走法」です。
実はこの違いが、馬の得意なコースや馬場状態、レース展開への対応力に深く関わっています。
本記事では、それぞれの走法の特徴や見分け方をわかりやすく解説するとともに、実際のレース内容や成績をもとにその走りを徹底分析します。
さらに、走法と馬場状態の相性や、馬券予想にどう活かすかまでを詳しくまとめました。
競馬初心者から中級者まで、走法の見極めが楽しくなる一歩をお届けします。
ピッチ走法とストライド走法とは?基本の違い

冒頭でも触れましたが、競走馬には「ピッチ走法」と「ストライド走法」のふたつの走法があります。
最初に、このふたつの走法がどういったものなのか、紹介します。
ピッチ走法とは?特徴・適性・代表馬
ピッチ走法は、一完歩の歩幅が小さく、脚の回転数が多い走法を指します。
まるでコンパクトなエンジンのように、テンポよく地面を刻むような走り方が特徴で、人間の陸上で言えば、短距離走の選手のように回転重視のフォームです。
代表的なピッチ走法の名馬には、ドウデュース、タイキシャトル、ドリームジャーニーなどが挙げられます。
ストライド走法とは?特徴・適性・代表馬
ストライド走法は、一完歩の歩幅が大きく、脚の回転数は比較的少ない走法です。
まるでグライダーのように、大きな飛びでゆったりと進むフォームが特徴で、見た目にもダイナミックな走りになります。
代表的なストライド走法の名馬には、イクイノックス、ディープインパクト、クロフネがいます。
特にイクイノックスは、世界最速級の持続力を見せつけた天皇賞(秋)やドバイシーマクラシックで、ストライド走法の真価を証明しました。
走法のメリット・デメリットを比較
それぞれの走法にはメリットとデメリットがあり、レース展開や距離適性にも影響します。
以下にピッチ走法とストライド走法の主なメリットとデメリットをまとめました。
比較項目 | ピッチ走法 | ストライド走法 |
---|---|---|
一完歩の特徴 | 小さく、足の回転が速い | 大きく、足の回転はゆったり |
加速力・瞬発力 | 高い(トップスピード到達が速い) | やや遅い(加速には助走が必要) |
最高速度 | 速いが、持続時間は短め | トップスピードが長く続く |
スタミナ・持久力 | 脚の回転数が多く、スタミナ消耗が激しい | ストライドで省エネ走法、長距離に強い |
道悪適性 | 高い(脚が沈む前に次の一歩が出るため滑りにくい) | 低め(大きく伸ばす脚が不安定な馬場に対応しづらい) |
コーナリング | 得意(小回りや内回り向き) | 苦手(ストライドが大きく、コーナーでロスしやすい) |
並走時の強さ | 劣る(ストライド型に歩幅で見劣りしやすい) | 優れる(並んだ際に一完歩で優位に立ちやすい) |
適性距離 | 短距離〜マイル | 中距離〜長距離 |
馬体の傾向 | 小柄で胴が詰まっている、飛節が曲がりやすい(曲飛) | 胴が長くスマート、飛節が伸びやすい(直飛) |
代表的な得意条件 | 道悪、急坂、小回り、瞬発力勝負 | 良馬場、平坦、大回り、高速持続力勝負 |
表で見てみると、ピッチ走法とストライド走法もメリットとデメリットは表裏一体であることが分かります。
一部、例外もありますが、走法の違いがレース適性に与える影響は大きいのです。
馬体とフォームから見る走法を見分け方

では、自分が応援する馬はピッチ走法なのか、それともストライド走法なのか?――これは多くの競馬ファンが一度は抱く疑問です。
走法の違いを把握することで、その馬がどんな展開や馬場、コースに強いのかを読み解く手がかりになります。
特に近年では、パドックやレース映像、さらには調教VTRなどを通じて、馬の走り方に注目するファンが増えてきました。
実は、馬体の構造や脚の動き、首の使い方などから、その馬がどちらの走法に近いかをある程度見分けることができます。
ここでは、具体的にどこを見れば走法のタイプがわかるのか、馬体とフォームの観点から詳しく解説していきます。
馬体の特徴で見分ける
馬の走法は、骨格の特徴からある程度見分けることができます。
注目すべきは後脚の「飛節」と「肩の角度」です。
飛節が大きく曲がっている曲飛はピッチ走法に多く、素早い脚の回転が可能です。
対して、飛節が真っ直ぐな直飛は大きなストライドを生みやすく、ストライド走法に向いています。
また、肩の角度が立っている馬はピッチ型、斜めに寝ている馬はストライド型に多い傾向があります。
例えば、ドウデュースは曲飛+立ち肩でピッチ走法、イクイノックスは直飛+寝肩でストライド走法の典型です。
走りのフォームで見分ける
馬の走法を見極めるには、レース映像や調教VTRで実際の走り方を観察するのが効果的です。
特に注目すべきは、完歩の長さと脚の回転数(ピッチ)です。
ストライド走法の馬は、一完歩で前に大きく進み、脚を大きく前方に投げ出すような滑らかな動きが特徴です。
反対にピッチ走法の馬は歩幅が小さく、膝を高く上げて地面を強く蹴り、素早く足を回転させることでスピードを得ています。
着地角度も異なり、ピッチ型は地面を垂直に叩くように走るため、道悪でも滑りにくいのが利点です。
さらに、ストライド型は首を大きく前後に使って推進力を生む傾向があり、ピッチ型は首の動きが控えめです。
映像で比較する際は、ストライドの長さや脚の運び方、首の使い方からピッチ走法なのか、それともストライド走法なのか判断することができます。
馬場状態・コースとの相性を知る

ピッチ走法とストライド走法の違いは、単に見た目や脚の運びだけでなく、馬場状態やコース形態における適性にも大きく関わっています。
特に注目したいのが、「道悪(ぬかるんだ馬場)」と「高速馬場(軽い良馬場)」という2つのコンディションです。
それぞれの走法がどういった馬場やコースに強く、どんな展開で力を発揮しやすいのかを知ることは、レース予想にも大きく役立ちます。ここでは、その特徴と傾向を詳しく比較してみましょう。
ピッチ走法は道悪で強い
ピッチ走法の馬は脚が地面に沈み込む前に次の脚を繰り出すように素早く動くため、ぬかるんだ芝や泥んこダートでも脚を取られにくいとされています。
実際、ピッチ走法の馬はダートや芝の重馬場でよく走るとよく言われます。
ピッチ=パワータイプとも言い換えられ、力の要る条件でも苦にしない傾向があるからです。
例えば不良馬場の競馬場で開催されたレースでは、短いピッチでかき込む走法の馬が上位に来やすい傾向があります。
事実、ピッチ走法の名馬レイパパレは重馬場の大阪杯で逃げ切り圧勝劇を演じましたし、エルコンドルパサーは欧州の深い芝でも高い適性を見せました。
もっとも、欧州の重い芝は日本の馬場とは質が異なるため一概には言えません。
ドウデュースのように日本でG1レースを5勝した名馬でも凱旋門賞では惨敗していることから、欧州の深い芝適性と日本の重馬場適性は別問題とも指摘されています。
ストライド走法は高速馬場に強い
ストライド型の馬は、その大きな一完歩と推進力を活かして高速決着に対応します。
軽い良馬場や直線の長い広いコースでこそ持ち味を最大限に発揮します。
長い直線でスピードの持続を要求される展開になればなるほど有利で、まさに東京競馬場のような長い直線コースが合ってい」と評価される馬が多いです。
イクイノックスはその典型で、長躯短背の完璧な馬体と柔軟な筋肉から生み出される大跳び走法で世界的な高速決着に対応してきました。実際、イクイノックスは2023年の天皇賞(秋)で東京芝2,000mの世界レコード1分55秒2を叩き出して勝利しています。なお、同レースでの前半1,000m通過は57.7秒というハイペースでしたが、イクイノックスだけがまったく失速せず押し切りました。
これほどまでの名馬は滅多にいませんが、このように、高い持続力とスピード能力を持つストライド走法馬は、高速馬場の持久戦で滅法強いのです。
一方で、ストライド走法の馬にとって深い泥んこ馬場は鬼門になりがちです。
なぜなら、脚を前に伸ばした瞬間に踏ん張りがきかず滑ってしまうことや、ピッチを上げづらく加速しにくいなどの弱点が出やすいためです。
このように、ストライド走法で多くのレースを勝利している馬でも、馬場が悪くなるとパフォーマンスを落とす傾向にあります。
ドウデュースvsイクイノックス:走法で読み解く名馬の強み

ここからは、2022年クラシック世代の最強馬であるドウデュースとイクイノックスの走法について解説します。
ドウデュースとイクイノックスはどちらも同期の馬でありながら、それぞれ異なる双方の持ち主です。
具体的には、ドウデュースはピッチ走法、イクイノックスはストライド走法でした。それぞれの個性を活かしてG1の舞台で輝いてきました。
注目すべきは、単なるタイプの違いにとどまらず、両馬がその特性に加えて弱点を補うだけの能力を兼ね備えているという点です。
この章では、両者の実績や走り方を比較しながら、走法とレース適性の関係、そして両馬の強さの本質に迫ります。
ピッチ走法の代表:ドウデュースの瞬発力
ドウデュースは、高回転のピッチ走法を持つ珍しいハーツクライ系の馬で、筋肉質な馬体と曲飛の後脚構造からも分かるように、瞬発力に特化したパワフルな走りが持ち味です。
2024年の天皇賞(秋)では、上がり3ハロン32秒5というG1勝ち馬史上最速タイムを記録し、「異次元の神脚」と称されました。
さらに特筆すべきは、一完歩の進みが大きいというストライド的要素も併せ持つ点でしょう。
日本ダービーでは、ピッチ走法ながら長く良い脚を使って東京の長い直線を押し切り、イクイノックスの追撃を封じました。
一方で、スタート後の加速がやや遅く、展開によってはポジション取りに苦労するのが課題です。
2023年の天皇賞(秋)ではその弱点が出て7着に敗れましたが、それでもドウデュースはスローペースの瞬発力勝負や、高速馬場でこそ真価を発揮する稀有な存在です。
ストライド走法の究極系:イクイノックスの持続力
イクイノックスは、大きなストライドを活かした持続力に優れる走法の持ち主で、胴長で柔軟な馬体から繰り出すダイナミックなフォームが特徴です。
デビューから並外れた末脚を見せ、古馬になってからはハイペースでも全くバテず、ドバイ・宝塚・天皇賞(秋)などで圧巻のレースを披露しました。
特に2023年の天皇賞(秋)では世界レコードで逃げ切り、他馬を寄せ付けませんでした。
加えて、必要に応じてピッチを上げる二刀流の走りもでき、ジャパンカップでは高回転で一気に加速する場面も見られました。
こうした柔軟性が異次元の強さを生んでいます。
唯一の懸念は体質面の繊細さで、使い詰めに向かない点ですが、その分一戦ごとの完成度は極めて高く、常に結果を残してきました。
まさにストライド走法の理想形といえる存在です。
走法を馬券予想にどう活かすか?実践的ポイント

ピッチ走法とストライド走法の違いは、単なる走り方だけでなく、コース適性・馬場状態・レース展開にまで影響します。
走法のタイプを見極めることができれば、レースの傾向に合った狙い馬を導き出すヒントになります。
ここでは、実際に馬券戦略として活かすためのポイントを3つに分けて解説していきます。
コース適性を見極める
コース形態に応じて有利になる走法は異なります。
たとえば、コーナーが多く小回りの中山や阪神などでは、俊敏に脚を回転させられるピッチ走法の馬が立ち回りで優位に立ちやすくなります。
坂の途中でもスッと加速できるため、急坂との相性も良好です。
一方、東京や新潟のように直線が長く、スピードの持続力が求められるコースでは、ストライド走法の馬が真価を発揮します。
大きな完歩で推進力を維持できるため、直線の長い競馬場との相性は抜群です。
馬場コンディション別の狙い方
馬場のコンディションによっても、狙いたい走法のタイプが変わってきます。
道悪(稍重〜不良)のように脚元を取られやすい馬場では、ピッチ走法の馬が有利です。
脚の回転が速く、地面に足をしっかり刻む走りがぬかるみを苦にしないため、重馬場巧者として好走することが多く見られます。
逆に、晴天続きで軽く速い時計が出やすい高速馬場では、ストライド走法の馬が力を発揮します。
一完歩で大きく進む走りはスピードの乗りが良く、レース全体が速くなるほど有利に働きます。
展開予測と脚質・走法の関係
展開(ペース)も走法の向き不向きを左右する重要な要素です。
スローペースで直線の瞬発力勝負になる場合は、ピッチ走法の馬が鋭い加速力を活かせるチャンスです。
ドウデュースのように高回転で一気にトップスピードへ到達できる馬が浮上しやすくなります。
逆にハイペースの持久戦になれば、ストライド走法の馬が持ち前の持続力を発揮します。
イクイノックスのように息を抜かず先行して押し切れるタイプは、こうした展開で抜群の安定感を見せます。
展開予測と走法のマッチングは、馬券検討の強力な武器になります。
まとめ:走法の知識が競馬予想を変える!

ピッチ走法とストライド走法は、馬の能力や適性を読み解くうえで非常に重要な視点です。
馬体の構造やフォームの違いを見極めることで、コース適性・馬場適性・レース展開への対応力が明確になり、予想の根拠がより深くなります。
特にドウデュースとイクイノックスという対照的な名馬の走りを知ることは、走法の理解を深めるうえで格好の教材と言えるでしょう。
初心者の方でも、映像やパドック観察を通じて少しずつ走法を意識することで、競馬の楽しみ方は何倍にも広がっていきます。