競馬ファンなら一度は目にしたことがあるであろう「同着(どうちゃく)」という判定。
ゴール板を通過した馬の差があまりにもわずかで、写真判定でも優劣がつけられない場合に適用される珍しい事象です。
また、同着が発生した場合の払い戻しルールも少々複雑で、知らないと戸惑うことも少なくありません。
この記事では、「同着とは何か」という基本的な定義から、払い戻しの仕組み、実際に起こった重賞レースでの事例までをわかりやすく解説します。
競馬の同着とは?意味と判定基準

競馬における「同着」とは、複数の馬が同時にゴールラインを通過し、写真判定でも順位の優劣がつけられない場合に採用される公式な判定です。
たとえば「1着同着」や「3着同着」といった形で発表され、着順表にもそのまま記録されます。
JRAではゴール後に写真判定が行われ、拡大画像をもとに裁決委員が判定を下しますが、完全に見分けがつかない場合は「同着」として決定します。
滅多に起こらない現象ですが、記録にも記憶にも残る名場面になることが多く、競馬の醍醐味のひとつとされています。
同着時の払い戻しはどうなる?

同着が発生した場合、競馬の払い戻しは基本的に折半となります。
たとえば単勝で1着が2頭いた場合、その両方の馬券が的中とみなされ、それぞれの配当は半額になります。
馬連や三連複といった組み合わせ馬券では、同着馬を含む的中パターンがすべて払い戻し対象となり、的中口数が増える分、配当は半分になるため少なくなる傾向があります。
つまり、「的中のチャンスは広がるが、配当は減る」のが基本です。
JRA公式サイトでも同着時の例は掲載されていますので、事前に知っておくことで混乱を避けられるでしょう。
なお、ワイド馬券に関しても同着の場合は複数の組み合わせが発生しますが、「3着-3着」の組み合わせは不的中となるので覚えておきましょう。
重賞レースの同着のエピソード

同着は年間に何度も起こるものではありませんが、重賞レースで発生した場合は特に大きな話題となります。
1着同着ともなれば、勝ち馬が2頭同時に表彰されるという珍しい光景も見られます。
ここでは、JRAおよび地方競馬で実際に起きた歴史的な同着レースの中から、記録にも記憶にも残る3つの名シーンを紹介します。
JRA史上初となる1着同着:オークス2010
2010年のオークス(G1)では、競馬ファンの記憶に深く刻まれる歴史的な出来事が起こりました。
アパパネとサンテミリオンという2頭の牝馬が、最後の直線で激しく叩き合いながらゴールへ突入しました。
ゴール後、写真判定となりましたが、何度確認しても着差は確認できず、JRAのG1競走としては史上初の「1着同着」の裁定が下されたのです。
この結果、両馬ともにオークス馬として認定され、馬主・調教師・騎手に対しても同等の表彰がなされました。
このレースは、同着という現象がもたらす競馬のドラマ性と、公平な判定制度の存在を改めて印象づけた一戦でした。
創設第1回開催の同着は史上初:小倉牝馬ステークス2025
2025年に新設された重賞、小倉牝馬ステークス(G3)で、いきなり前代未聞の出来事が発生しました。
ゴール前で激しく追い比べたのは、フェアエールングとシンティレーションの2頭でした。
結果は写真判定となり、その判定の末に「1着同着」と発表されたのです。
重賞の創設第1回目において同着となるのはJRA史上初で、関係者もファンも驚きの声を上げました。
また、初代女王が2頭誕生するという前例のないスタートは、このレースの存在を一気に全国区へと押し上げることとなりました。
のちにJpn1競走になるレースの同着:帝王賞1992
1992年の帝王賞では、ナリタハヤブサとラシアンゴールドが並んでゴールし、1着同着という歴史的な決着となりました。
騎乗していたのは、ナリタハヤブサが横山典弘騎手、ラシアンゴールドが蛯名正義騎手です。
この両者は後年、2010年のオークスでもアパパネ(蛯名騎手)とサンテミリオン(横山騎手)に騎乗し、再び1着同着という奇跡を演出します。
重賞レースで同じ騎手同士が、異なる時代に2度も1着同着を経験するのは極めて珍しく、まさに“運命のいたずら”ともいえる逸話です。
なお、帝王賞は後にJpn1へと格付けされ、日本ダート界の最高峰のひとつとして位置付けられるようになりました。
まとめ:同着は競馬の醍醐味のひとつ

同着は競馬において極めて稀な出来事ですが、その分だけ記憶に強く残るシーンとなります。
写真判定でも見分けがつかないほどの接戦は、見る者にとってまさに手に汗握る瞬間でしょう。
配当面では少々損になることもありますが、予想外の展開が競馬の奥深さと面白さを引き立てます。
また、騎手や馬のドラマが重なることもあり、帝王賞1992とオークス2010における“横山典弘×蛯名正義”の因縁のように、数年越しでつながる物語も見逃せません。
競馬を長く楽しむほど、こうした偶然の積み重ねが宝物になっていく――同着は、そんな競馬の魅力を象徴する瞬間のひとつです。