競馬ではスタートの一瞬が勝敗を左右するといわれます。
ところが、すべての競走馬がスムーズにゲートへ入り、問題なく飛び出すわけではありません。
ゲートに入るのを嫌がったり、ゲート内で暴れたり、扉が開いても出遅れたりと、スタートに関するトラブルを抱える馬は少なくありません。
このような発馬の難しさを総称して「ゲート難」と呼びます。
マイナス要素として語られがちなゲート難ですが、競馬の歴史にはゲート難を抱えながらも大活躍し、多くのファンに愛された名馬も存在します。
本記事ではゲート難の意味や種類、そして象徴的な存在であるゴールドシップやブチコのエピソードを取り上げながら、その魅力と奥深さを紐解きます。
ゲート難とは?競馬における意味と起こる理由
ゲート難といっても内容はひとつではありません。
ゲート入りを嫌がって枠に入ろうとしない馬もいれば、ゲート内で暴れてしまう馬、扉が開いても反応できず出遅れる馬など原因や症状はさまざまです。
最初に、まずゲート難とは何を指すのか、その基本的な意味と理由について整理していきます。
競走馬のスタート時に発生する“問題行動”の総称
競走馬のスタート時に発生するトラブルをまとめて表す言葉が「ゲート難」です。
発走機に入る時に嫌がったり、ゲート内で落ち着かず暴れたり、扉が開いてもスムーズに飛び出せなかったりと、状況や行動の種類はさまざまです。
ただ共通しているのは、発馬の瞬間にうまく力を発揮できず、レースのスタートに支障をきたしてしまう点です。
ゲート難は能力そのものではなく、スタートという局面で問題行動が出てしまうことを指しています。
ゲート難が起こる理由
ゲート難が起こる理由は大きく分けて気性・環境・体質の3つが関係しています。
まず気性面では、臆病な馬は狭い空間に入ることを怖がり、気性が荒い馬はイライラしてゲート内で落ち着けなくなります。
また、周囲の馬や騎手の動きに敏感なタイプは集中力が切れやすく、スタートの反応が遅れることがあります。
さらに関節の柔らかさなど体質的な特徴によって、第一歩の踏み出しが遅くなる馬もいます。
どの理由であれ、ゲート難は単なるワガママではなく、その馬の気質や身体的特徴が影響して起こるものです。
ゲート難の主なタイプと特徴
一口にゲート難といっても、その現れ方は馬によって大きく異なります。
ゲートに入る前に問題が出る馬もいれば、ゲート内で落ち着かない馬、スタートの瞬間に反応できない馬もいます。
ここからはゲート難の代表的なタイプを挙げながら、それぞれの特徴とレースに与える影響を見ていきます。
ゲート入りを嫌がる
ゲート難の中で最もよく見られるのが、ゲートに入ること自体を嫌がるタイプです。
ゲートへ誘導されても後ずさりしたり、首を振ったり、立ち上がったりしてなかなか中へ入ろうとしません。
臆病さや神経質な気質が原因の場合もあれば、過去にゲート内でストレスや恐怖を感じた経験から拒否反応を示す場合もあります。
このタイプの馬は目隠しをしたり、一番最初にゲートへ入れるなど係員や陣営が工夫を凝らしますが、それでも渋ることも多く、発走時間が遅れる要因になってしまいます。
ゲート内で暴れる・破壊する
ゲートに入った後に暴れてしまうタイプも深刻なゲート難です。
スタートまで静止したまま待たなければならない時間に耐えられず、立ち上がったり体をひねったりして騎手を振り落とすケースもあります。
ひどい場合はゲートをくぐって外へ飛び出したり、扉を破壊してしまうこともあり、馬体検査や再整列が必要になるため発走時刻への影響が大きくなります。
暴れる最中に自ら負傷するリスクも高く、騎手や他馬を巻き込んで事故につながる危険性もあることから、最も警戒されるタイプのゲート難といえます。
スタート時の反応が悪く出遅れる
ゲート難の中でも比較的多いのが、扉が開いた瞬間にスムーズに前へ踏み出せないタイプです。
ゲート内で体勢を崩していたり集中力が切れていたりすると、反応が遅れて一歩目が出ず、致命的な出遅れにつながることがあります。
第一歩を踏み出せても行き脚がつかず加速が遅れるケースもあり、大きな不利を抱えた状態でレースに入らざるを得ません。
出遅れは位置取りに影響するだけでなく、馬のリズムや気持ちにも関わるため、能力が高い馬であっても実力を出し切れない要因になることがあります。

ゲート難を抱えながら活躍した名馬たち
ゲート難はレースに不利をもたらす要素であり、勝ち上がりを阻む原因になることも珍しくありません。
それでも、ゲート難を抱えながら大レースを制し、多くのファンに愛された名馬たちも存在します。
ここからはゲート難の象徴ともいえる代表的な2頭、ゴールドシップとブチコのエピソードを振り返りながら、その個性と魅力に迫ります。
ゴールドシップ(ゴルシ)|豪快なスタート問題と圧倒的実績
ゴールドシップはゲート難を語るうえで必ず名前が挙がる存在です。
ゲート入りに手こずることも多く、後ろ向きで入ろうとしたり目隠しをして誘導したりと常に気難しさと向き合いながらレースに臨んでいました。
特に有名なのが2015年の宝塚記念で、ゲート内で立ち上がったままスタートのタイミングを逃し、致命的な大出遅れで大敗したシーンは今も語り草となっています。
一方で能力は抜群で、菊花賞、有馬記念、宝塚記念など数々の大レースを勝ち抜き、豪快な走りでファンを魅了しました。
ゲート難という弱点すらキャラクター性として愛された稀有な名馬といえるでしょう。
余談ですが、ゴールドシップが大敗した2015年の宝塚記念からちょうど10年後、2015年の宝塚記念において、産駒のメイショウタバルが逃げの競馬で優勝し、父の日にG1制覇を成し遂げています。
ブチコ|ゲート難で引退した伝説の問題児
ブチコはゲート難によって競走馬生活に終止符を打った稀有な存在です。
ゲート内で落ち着けず暴れるだけでなく、扉をくぐって外へ飛び出したり破壊してしまうことが何度もあり、発走遅延や競走除外を繰り返しました。
2016年のマリーンカップではゲートを破壊して負傷し競走除外、続く麦秋ステークスではくぐり抜けて脱走しラチに激突、騎乗していたルメール騎手を落馬させ骨折させた事件は衝撃を与えました。
再調教を試みても改善の見込みが立たず、馬の身体的負担を考慮して引退という決断に至りました。
しかし引退後は繁殖牝馬として成功し、白毛のG1馬ソダシを産んだことで“伝説の問題児が名馬の母へ”というドラマチックな結末を迎えました。
ゲート難はレース予想にどう影響する?
ゲート難はレースで不利になるイメージが強く、馬券検討の際に嫌われがちな要素です。
しかし、出遅れやスタート難があっても好走するケースはあり、条件次第ではむしろ狙い目になることもあります。
ここからはゲート難の馬がどのように予想に影響するのかを整理しながら、買うべきタイミングと避けたい場面のポイントを見ていきます。
ゲート難の馬を買うべきレース・避けるレース
ゲート難の馬を買うべきかどうかはレース条件によって大きく変わります。
序盤の位置取りが結果に直結しやすい短距離戦や小回りコースでは出遅れが致命傷になりやすく、積極的に狙うのは難しくなります。
一方で直線が長く、後方からでも巻き返しが可能なコースや、スタミナ勝負になりやすい中長距離戦では挽回できる余地があり、展開次第で激走する可能性が高まります。
また、末脚が強い差し馬の場合はスタートが悪くてもハマると大きな配当を生むことがあり、馬券的な妙味が大きくなる点も見逃せません。
ゲート難でも狙えるケース|スタート以外の強みを評価
ゲート難があっても狙える馬には明確な強みが存在します。
スタートで後手を踏んでも巻き返せるだけの末脚がある馬や、道中での立ち回り・コーナリング・持久力など他の部分で圧倒的な武器がある馬は、ゲート難を補って余りあるパフォーマンスを見せることがあります。
また、気分良く走れたときに能力を爆発させるタイプの馬は、展開や馬場がハマると大波乱を起こすことも珍しくありません。
弱点に目が行きがちなゲート難ですが、スターターさえ決まれば能力を発揮しやすい条件を見極めることで、馬券の狙い目になる場合があります。
まとめ:ゲート難は欠点であり、魅力でもある
ゲート難は競走馬にとって間違いなく不利な要素ですが、それがただの欠点にとどまらないところに競馬の面白さがあります。
ゲートでの気難しさや出遅れという弱点を抱えながらも、大舞台で能力を発揮して勝ち切る姿は強烈なドラマを生み、ファンの心を掴みます。
ゴールドシップの豪快な走りや、ブチコが母として“逆転の成功”をつかんだ物語のように、ゲート難はときに競走馬の個性を際立たせ、競馬の魅力そのものを深めます。
スタートの一瞬に息を呑み、その先の展開に胸が高鳴る――ゲート難は競馬観戦のスリルを彩る一つのスパイスだといえるでしょう。

