競馬には「牝馬は格より調子」という言葉があります。
これは、実績や血統よりもその時のコンディションが結果を左右するという意味です。
牝馬は牡馬よりも気性が繊細で、メンタルや体調の波が激しいため、一度崩れると立て直すのが難しいといわれます。
しかし、そのぶんハマった時の爆発力は絶大で、格上の相手をまとめて負かすことも少なくありません。
ソダシのように気持ちが噛み合えば、再びG1を制する力を発揮します。
今回は、そんな「牝馬の調子」の難しさと、「格より調子」という格言が生まれた理由を解説します。
「牝馬は格より調子」とは?
「牝馬は格より調子」とは、どれだけ実績や格が高くても、そのときの体調や気分次第で結果が大きく変わるという意味の格言です。
牝馬は繊細で感情の起伏が激しく、馬体の張りや食欲など、コンディションの微妙な変化が走りに直結します。
逆に調子さえ整えば、格上の牡馬を相手にしても互角以上の走りを見せることもあります。
そのため、牝馬のレースを予想する際は、血統や戦績よりも「今、どれだけ機嫌が良いか」「馬体が整っているか」を重視することが大切です。
牝馬はなぜ調子に左右されやすいのか
牝馬が調子に左右されやすいのは、単なる気分屋というよりも、生理的・心理的な特徴が大きく関係しています。
気性が繊細で環境の変化に敏感なうえ、ホルモンバランスによる体調の波も無視できません。
さらに、牡馬に比べて筋肉量が少なく、馬体の維持が難しいことも影響します。
ここからは、牝馬の「調子」を左右する主な要因を3つに分けて詳しく見ていきましょう。
繊細なメンタルと気分の波
牝馬はもともと繊細な性格をしており、環境の変化やレース中のトラブルを強く受けやすい傾向があります。
一度怖い思いをしたり、苦しい競馬を経験すると、それを記憶して次走に影響を残すことも少なくありません。
気分が乗らないと走る気をなくす「臍を曲げる」状態になることもあり、立て直しが難しい理由のひとつです。
逆に、リラックスした環境や信頼する騎手に導かれると一気に力を発揮することもあり、このメンタル面の振れ幅が牝馬競馬の面白さでもあります。
ホルモンバランスによる体調変化
牝馬は発情周期などホルモンの変化によって体調や気分が大きく揺れ動くため、常に一定の状態を保つのが難しいとされています。
ホルモンバランスが乱れると、筋肉の張りや毛ヅヤ、食欲にも影響が出てしまい、調教で思うように負荷をかけられないこともあります。
そのため、厩舎では毎日の馬体チェックを欠かさず行い、食べる量やテンションの高さから心身のコンディションを読み取ります。
レースの結果以上に「今、どんな状態か」を重視するのが、牝馬を扱ううえでの大きなポイントです。
馬体の維持と筋肉量の差
牝馬は牡馬よりも筋肉量が少なく、馬体の張りやボリュームを維持するのが難しいといわれています。
調子を崩すと一気に体が細くなり、回復に時間がかかることもしばしばです。
無理に追い切りをかけるとさらに消耗してしまうため、調教での負荷を調整しながら慎重に立て直す必要があります。
その結果、復調までの期間が長引くケースも多く、牝馬の「崩れた後が難しい」と言われるのは、この体質面のデリケートさにも原因があります。
ソダシの復活が示した「調子を読む厩舎の力」
ヴィクトリアマイルで見事に復活を遂げたソダシは、「牝馬は格より調子」という格言を象徴する存在です。
須貝尚介調教師は、桜花賞をレコード勝ちした当時から1,600mこそがベストという判断を一貫して持ち続け、無理に距離や条件を変えず、精神面の立て直しを最優先にしました。
ダート挑戦も“新境地探し”ではなく、心身をリフレッシュさせるための戦略的な判断でした。
結果、白く輝く馬体は筋肉の張りを取り戻し、再びソダシ本来の伸びやかな走りを披露しました。
この復活劇は、牝馬の「乙女心」を理解し、焦らず調子を戻すことの大切さを示した好例といえるでしょう。
「夏は牝馬」と「格より調子」の関係
「夏は牝馬」という格言は、「牝馬は格より調子」という言葉とも深くつながっています。
もともと馬は暑さに弱い動物ですが、牝馬は体脂肪がやや多く、体温変化に対して安定しやすい体質を持つといわれています。
そのため、夏場でも体調を崩しにくく、レースで安定したパフォーマンスを発揮しやすいのです。
さらに、夏の競馬は新潟や小倉、札幌など平坦でスピードの出るコースが多く、軽い走りを得意とする牝馬の特徴と合致します。
つまり、「夏は牝馬」とは、牝馬が季節の波にうまく乗れる“調子の良さ”を表した言葉なのです。

牝馬を見抜くポイント:格ではなく“今の状態”
牝馬を買うときに大切なのは、過去の実績よりも「いまどんな状態か」です。
牝馬は気分や体調の波が激しく、前走の敗因が単なる不調だったのか、それとも気持ちの問題だったのかを見極める必要があります。
調教やパドックで落ち着きがあり、馬体にハリやツヤが戻っていれば復調のサイン。
一方で、馬体が減っていたり、テンションが高くチャカついている場合は要注意です。
牝馬の予想は「格」ではなく、「その日どれだけ気持ちよく走れるか」を読むことが勝負のカギになります。
まとめ:「牝馬は格より調子」を信じてみる価値
牝馬は実績よりも、そのときの気分や体調によって走りが大きく変わる存在です。
気まぐれで扱いが難しい一方、気持ちさえ噛み合えば驚くようなパフォーマンスを見せることもあります。
「牝馬は格より調子」という言葉は、そんな繊細な牝馬の特性を踏まえた経験則であり、競馬ファンにとって重要な指針です。
過去の実績や人気に惑わされず、いま一番リズムに乗っている牝馬を信じることこそ、勝利への近道かもしれません。

