一年の最初に行われる【金杯】(きんぱい)は新年の競馬を飾る名物重賞競走です。
ハンデのG3競走競走にも関わらず、一年最初の重賞を当てようと多くの人が馬券を購入するため売り上げも大きいです。
ところで、金杯ってどういう意味なのか気になる方もいるのではないでしょうか。
また、ほかのレースとは異なり金杯は基本的に1月5日に開催されるため、ほかのレースと比較しても特別な扱いがされています。
そこで、当記事では一年最初の重賞競走である金杯の基本的な情報についてまとめました。
興味がある方はぜひ最後までご閲覧ください。
競馬の金杯とは?
年明け最初に開催される金杯は50年以上前から開催されている伝統ある競走です。
中央競馬には中山金杯と京都金杯が存在していますが、この2つのレースの総称を金杯と呼んでいます。
最初に金杯の基本的な情報について紹介します。
金杯の概要
中央競馬における金杯は中山競馬場で開催される中山金杯と京都競馬場で開催される京都金杯が存在しています。
それぞれの金杯の概要は下記の通りとなっています。
レース名 | 中山金杯 | 京都金杯 |
レースグレード | G3 | G3 |
1着賞金 | 4,300万円 | 4,300万円 |
出走条件 | 4歳以上 | 4歳以上 |
負担重量 | ハンデ | ハンデ |
コース | 中山芝2,000m | 京都芝1,600m(外) |
金杯は金の盃から来ている
金杯という言葉は金の盃(さかずき)から来ています。
盃とはお酒を入れる器のことです。金の盃は結婚式やお正月などのお祝い行事で使われ、縁起のよい酒器として使用されていました。
また、金の杯には大切な人とのつながりを強める意味もあります。
競馬における金杯も縁起の良い競走として定着しました。
特にここ数十年は年明け最初に開催されています。
レースを勝った関係者や馬券を当てた人からしたら正月早々からいい一年のスタートが送れることから、金杯に力を入れている人も増えています。
金杯の読みは(きんぱい)
冒頭でも少し触れましたが、金杯は”きんぱい”と読みます。
同時に地方競馬のレースで表記されることが多い金盃もきんぱいと呼びます。
G3の中でもっとも賞金額が高いレース
中央競馬で開催されている中山金杯と京都金杯はどちらもG3競走に指定されています。
そして、1着の賞金は2025年時点で4,300万円に設定されています。
G3競走における1着馬の最高賞金は4,300万円なので金杯は数あるG3競走の中でもっとも賞金額が高いレースなのです。
ただし、1着4,300万円に指定されているG3競走は意外と多く存在しています。具体的には以下のレースが4,300万円に設定されています。
- ダイヤモンドステークス
- 阪急杯
- 小倉大賞典
- オーシャンステークス
- エプソムカップ
- 新潟大賞典
- 函館記念
- 七夕賞
- 小倉記念
- キーンランドカップ
- 新潟記念
- チャレンジカップ
- 福島記念
- 鳴尾記念
- 中日新聞杯
G2競走の札幌記念(1着賞金7,000万円)やG1レースの有馬記念とジャパンカップ(1着賞金5億円)と違ってG3レースは最高賞金額のレースがたくさんあるのでそこまで特出した特徴というわけではありませんでした。
G3の中では売り上げが大きい
金杯は一年の最初に行われる重賞でなおかつお正月の時期に行われるレースなので、多くの人がまだ仕事始めに入っていないです。
その影響もあって、金杯はハンデのG3にしては馬券の売上が大きいです。
なお、2024年は中山金杯の売上が約74億で京都金杯は約65億でした。
同年3月に行われたG3の阪急杯の売上が約48億、12月に行われたG3の中日新聞杯の売り上げが約41億円だったのでこれらのレースと比較すると大きな売り上げだったことが分かります。
ただし、金杯の翌週に開催されたG3のフェアリーステークスは売上が約81億円、シンザン記念は約78億円でどちらも大きいです。
金杯の週やシンザン記念の週は同週で行われるG1やG2競走がないため売上が集中しやすい共通点があります。
金杯はお正月時期も影響して売上は全G3競走の中でも大きいですが、もしも2月以降のトライアルレースやG1レースと被っていたら売上は今よりもっと少ない可能性も考えられるでしょう。
「一年の計は金杯にあり」とは
競馬のことわざに「一年の計は金杯にあり(いちねんのけいはきんぱいにあり)」という言葉があります。
この言葉は戦国時代に中国地方で活躍した毛利元就の言葉である「一年の計は元旦にあり」という言葉を競馬風にアレンジしたものです。
ちなみに由来となった「一年の計は元旦にあり」という言葉は下記の意味があります。
「物事は最初が大切で、一年のことは年初めの元旦に計画を立てるべき」
競馬にアレンジした「金杯にあり」も同様で、競馬で勝つには最初に一年の計画を立てることが大切で、例えば、今年の目標が回収率110%を目指すのであれば、金杯がはじまるまでにプランを練ることを心掛けよと忠告しているのです。
ただし、人によっては「金杯にあり」を「最初に金杯を当てることでその年の運勢が決まる」と認識している人が多く、今となってはどちらの使い方も間違いではないのかもしれません。
「金杯で乾杯」とは
「金杯で乾杯」も金杯を意識した造語です。
「(金杯を)勝って祝杯(乾杯)しよう」という意味で、言葉のゴロも良く洒落た言葉として多くの人、特に酒飲みが頻繁に連呼しています。
なぜ金杯は1月5日に開催されるのか
中央競馬は基本的に週末の土日に開催され、三連休が続いた日は稀に金曜日や月曜日の祝日にレースが行われます。
ところが、金杯は基本的に1月5日に開催されることが定着しています。
例え平日だったとしても5日にレースが行われることが多いので、競馬初心者の方にとってはどうして5日なのか気になる人もいるのではないでしょうか。
どうして金杯は1月5日に開催されるのでしょうか。その答えは公式にはありませんでした。
あくまで推測になりますが、ここからはなぜ金杯が1月5日に開催されるのかまとめてみました。
レースとの間隔が開きすぎないようにするため
一つ目の予想としてはレースとの間隔が開きすぎないようにするための措置だと考えられます。
2016年までは中央競馬の最後のレースは有馬記念でした。
有馬記念は12月の4週に開催されます。28日の日曜日にレースが行われる年もあれば22日の日曜日に開催される年もあったのです。
前者の場合は金杯との間隔がちょうど1週間なので問題ありませんが、後者の場合は2週間近くレース間隔が開いてしまいます。
そのため、極力間隔を一定にするため日にちを固定したと考えられます。
なお、金杯が三が日(1日~5日)に開催されない理由は競馬法第3条と競馬法施行規則の第2条に下記の規約があるからです。
第3条 中央競馬は、次に掲げる事項につき農林水産省令で定める範囲を超え、又は農林水産省令で定める日取りに反して、開催してはならない。
(参照:競馬法)
2 法第3条の農林水産省令で定める日取りは、次の各号のいずれかに該当する日取りとする。
日曜日、土曜日、国民の祝日に関する法律(昭和23年法律第178号)に規定する休日、1月5日から同月7日まで又は12月28日のいずれかの日からなる日取り
(参照:競馬法施行規則)
1月1~4日が平日の場合は最短で開催できる日にちが5日になるため金杯の開催日を5日に固定したと推測できます。
余談ですが、2017年にG1昇格したホープフルステークスは平日・休日問わず基本的に12月28日に開催されます。
ホープフルステークスが28日小手になったことで金杯との間隔がちょうど1週間になったので、競走馬を管理するスタッフからしたらプランニングが組みやすくなったのではないでしょうか。
1月5日から競馬がスタートすることを認識してもらうため
金杯が5日固定のふたつめの理由は5日に競馬がはじまることを認識しているためだと考えられます。
そもそも人間は特別な日付は意外と頭に残る生き物です。
例えば12月25日といったらクリスマス、7月7日は七夕など、だれもが日付を聞いただけで認識できる特別な日は日常的にあふれています。
金杯を5日に固定しているのもおそらくJRAからこういった狙いがあるのかもしれません。
実際に競馬ファンの多くは5日が金杯であると認知しているので、5日から一年の競馬がスタートすると考えており、5日固定は成功しているといえるでしょう。
カレンダーによっては4日や6日に開催するケースもある
金杯は1月5日に開催されるレースですが、2018年と2024年の金杯は6日に開催され、2015年の金杯は4日に開催されました。
実は、開催年によっては開催時期が前後する場合があります。
なぜ、前後するかというとカレンダーが関係しています。
6日に開催された2018年や2024年は6日が土曜日で7日が日曜、そして8日は月曜ですが成人の日の祝日でした。
この2開催はどちらも6日から8日まで3日間開催が行われたため、あえて一日遅らせることで3日間開催を成立させています。
次に、4日に開催された2015年は3日が土曜日で4日が日曜、そして5日は平日月曜日でした。
従来の5日からスタートさせると月火でどちらも平日開催となるため、売り上げに影響を及ぼします。
そのため、この年は4日に金杯を開催し、5日は平日月曜日でしたが通常通りレースが行うことで例年通り週2日間開催を実現させていました。
4日開催時も6日開催時もカレンダーの都合で若干スケジュールが組み替えられており、どちらも売上に悪影響を及ぼさない範囲で調整がされているのです。
金杯がふたつ存在する理由
中央競馬には中山競馬場で開催される中山金杯と京都競馬場で開催される京都金杯、ふたつの金杯が存在しています。
どうしてふたつも金杯が存在しているのか解説します。
かつては中山競馬場で行われた金杯しか存在していなかった
実は金杯は最初から2つ存在していたわけではなく、もともとは中山競馬場にしかありませんでした。
中山で開催されていた金杯は1952年に創設されています。
創立してしばらくはシンプルに「金杯」の名称でレースが行われていましたが、1996年に京都で行われていた京都金杯の前身である「迎春賞」が金杯に改名され、この年から東西ふたつの競馬場で金杯が行われるようになったのです。
なお、当時は現在のような中山金杯や京都金杯という名称ではありませんでした。
中山競馬場で開催された金杯を「金杯(東)」、京都競馬場で開催される金杯を「金杯(西)」という表記で区別していました。
1996年に現在の名称に変わった
1966年に東西でふたつの金杯が誕生してからは(東)と(西)を付け足すことでそれぞれ金杯を区別していました。
名称がさらに変わったのが1996年です。
金杯(東)を中山金杯、金杯(西)を京都金杯と、それぞれの開催競馬場名を付けることでさらに分かりやすい表記となり、同時に現在も使われているレース名となったのです。
2021年から2023年と2025年の京都金杯は中京競馬場で開催された
中山金杯も京都金杯もレース名を見るだけで開催競馬場が分かります。
ところが、2021年から2023年、そして2025年の京都金杯は中京競馬場で開催されることが決まりました。
なぜ京都ではなく中京で代替開催されるかというと、前者は京都競馬場の改修工事の関係で京都競馬場が使用できず、後者は阪神競馬場のリフレッシュ工事の関係で京都開催が従来より延長し、芝の保全のため休養するからです。
なお、代替開催の場合は「中京金杯」に名称変更してもおかしくありませんが、従来の京都金杯の名称でレースが行われたので、競馬に触れたばかりの初心者の方からしたら少しややこしかったかもしれませんね。
地方競馬の金杯
実は金杯は中央競馬だけの言葉ではなく、地方競馬でもレースで使われています。
ここからは、地方競馬の金杯競走をいくつか紹介します。
金杯(水沢競馬)
岩手県奥州市にある水沢競馬場で開催される金杯の正式名称は「岩手競馬新聞連盟杯 金杯」といいます。
舞台は水沢競馬のダート1,600mで2歳馬限定の重賞競走に指定されており、3歳以降の岩手三冠競走を目指すうえで重要なステップとして位置づけされています。
なお、開催時期は1995年から2023年までは1月2日か3日に開催され、中央競馬の金杯同様正月を飾る名物競走に指定されていました。
しかし、その後は12月暮れに若干前倒しになり、2023年は12月30日にもレースが行われていて一年で2回金杯が行われています。
金盃(大井競馬)
大井競馬場で開催される金盃は正式名称を「東京中日スポーツ賞 金盃」といいます。
設立は1956年で大井競馬で開催される羽田盃や東京ダービー、大井記念と並んで歴史と伝統のあるレースとして古くから一定の地位を築いてきました。
1956年から1973年まではダート2,400mで、1974年から2014年はダート2,000mに距離短縮し、2015年以降はダート2,600mに距離延長しており、現在で長距離ダート馬を見出すレースとして確立しています。
なお、大井の金盃は1月初春に開催されておらず、これまでは2月の上旬から中旬のあたりで行われましたが2024年のダート番組大幅整備に伴い、現在は1月下旬にレースが行われ、大井で最初の重賞として開催されています。
園田金盃
園田金盃はレース名が示しているように兵庫県にある園田競馬場で開催される重賞競走です。
設立は2001年と他の金杯と比較すると歴史は浅く、2001年から2008年まではダート2,400mで、2009年以降はダート1,870mでレースが行われていました。
なお、園田金盃は独自のファン投票システムを導入しており、中央競馬の有馬記念や宝塚記念と同じく上位に支持された馬は優先出走権が与えられます。
園田金盃の場合は実績のある馬が選抜され、その中から上位6頭、そして記者が選抜した2頭に優先出走権が与えられるので、地方競馬のグランプリレースのような位置づけがされています。
なお、近年の園田金盃は12月に開催されており、中央競馬の金杯とは逆に年の瀬の風物詩としての確立しています。
北海道スプリントカップ
北海道スプリントカップは北海道にある門別競馬場で開催される短距離ダート交流重賞です。
一見金杯と全く関係ないように思いますが、北海道スプリントカップの前身レースが1959年から1996年まで北海道の各競馬場で開催されていた「金杯(北海道)」でした。
交流重賞に伴いレース名が変わりましたが前身が金杯だったのでここに記述しました。
世界の金杯
金杯は国内のみならず、世界中でも開催されています。
ここからは世界の金杯を2つ紹介します。
ゴールドカップ
ゴールドカップはイギリスのアスコット競馬場で開催されるレースです。
ゴールドカップは日本語表記すると(金杯)と呼び、実際に世界中でそのように認知されています。
創設年は1807年でなんと200年以上も歴史があり、格付けはG1、コースは約4,014mと日本では考えられないような距離に指定されており、世界のグレード競走の中でもっとも距離の長い平地競走として確立しています。
日本馬の参戦は2004年の天皇賞(春)を制したイングランディーレのみです。
近年は日本馬の海外遠征も盛んなので、イギリスの名物ステイヤーレースに挑む馬が現れるか注目したいです。
香港ゴールドカップ
香港ゴールドカップは香港の沙田(シャティン)競馬で開催される芝2,000mのG1競走です。
創設は1979年で香港の中距離馬が多数参戦していました。
日本でも馴染み深いのあるゴールデンシックスティやワーザー、ロマンチックウォリアーも過去に香港ゴールドカップを制していますよ。
金杯のまとめ
今回は金杯に関する情報を紹介しました。
金杯は年明け最初の重賞競走として定着しているレースですが歴史が深くて日付も固定なので他のG3競走と比較しても特別感のあるレースといえるでしょう。
また、中央競馬以外にも地方競馬や世界中にも金杯があり、世界各国で縁起の良いレースとして定着しているようです。
年明け金杯を制して幸先のいい一年を切りたいですね。