日本の競馬には、外国の国名が付いたユニークなレースがいくつも存在します。
アメリカジョッキークラブカップやアルゼンチン共和国杯など、その名を聞くだけで海外とのつながりを感じる人も多いでしょう。
これらのレース名は、単なる語感の良さではなく、国際的な友好や競馬文化の交流を象徴して名付けられています。
本記事では、世界の国名が付いた代表的なレースを紹介しながら、その背景や由来についても分かりやすく解説します。
世界の国名が付いた重賞レース一覧
日本の競馬には、外国の国名が冠されたレースがいくつかあります。
どのレースも国際的な友好や文化的な交流を背景に誕生しており、名称の由来を知ることで競馬の奥深さを感じることができます。
ここでは、アメリカ・ニュージーランド・サウジアラビア・アイルランド・アルゼンチンの5カ国の名を持つ代表的なレースを紹介します。
アメリカジョッキークラブカップ
| グレード | G2 |
|---|---|
| 創設 | 1960年 |
| 開催競馬場 | 中山競馬場 |
| コース | 芝2,200m |
| 出走条件 | 4歳以上 |
| 負担重量 | 別定 |
| 1着賞金 | 6,200万円 |
アメリカジョッキークラブカップは、中山競馬場で行われる芝2,200mのG2競走です。
1960年に日米の友好関係を記念して創設され、ニューヨークジョッキークラブから優勝杯の寄贈を受けたことが始まりでした。
略称は「AJCC」または「AJC杯」で知られ、年明け最初の中距離重賞として古馬勢の始動戦に位置づけられています
創設当初は芝2,000mで実施されていましたが、現在の芝2,200mに定着したのは1984年。
長い歴史の中でスピードシンボリ、グリーングラス、スペシャルウィーク、ブラストワンピースなど名馬が勝ち馬に名を連ねています。
冬の中山らしい持久力勝負になりやすく、春のG1戦線へ向けた試金石として毎年注目を集める伝統の一戦です。
ニュージーランドトロフィー
| グレード | G2 |
|---|---|
| 創設 | 1983年 |
| 開催競馬場 | 中山競馬場 |
| コース | 芝1,600m |
| 出走条件 | 3歳牡・牝 |
| 負担重量 | 馬齢 |
| 1着賞金 | 5,400万円 |
ニュージーランドトロフィーは、中山競馬場で行われる芝1,600mのG2競走です。
1983年に創設され、ニュージーランドの「ベイオブプレンティレーシングクラブ(現・レーシングタウランガ)」から優勝杯の寄贈を受けたことがきっかけで誕生しました。
正賞にはニュージーランド航空賞が贈られ、両国の友好を象徴するレースとして位置づけられています。
現在はNHKマイルカップのトライアル競走に指定されており、3着以内の馬には本番への優先出走権が与えられます。
これまでにオグリキャップ、エルコンドルパサー、エイシンプレストンなど、後にG1戦線で活躍する名馬が多数勝利しており、マイル路線を目指す3歳馬にとって重要な登竜門となっています。
スピードと瞬発力が問われる春の中山マイル戦として、高い注目を集める一戦です。
サウジアラビアロイヤルカップ
| グレード | G3 |
|---|---|
| 創設 | 2015年 |
| 開催競馬場 | 東京競馬場 |
| コース | 芝1,600m |
| 出走条件 | 2歳 |
| 負担重量 | 馬齢 |
| 1着賞金 | 3,300万円 |
サウジアラビアロイヤルカップは、東京競馬場で行われる芝1,600mのG3競走です。
2014年に前身の「いちょうステークス」が重賞に格上げされ、翌2015年から日本とサウジアラビアの外交関係樹立60周年を記念して現在の名称となりました。
正賞はサウジアラビアジョッキークラブ賞で、両国の友好を象徴する2歳マイル重賞として知られています。
創設からまだ10年あまりながら、過去の優勝馬にはダノンプレミアム、グランアレグリア、サリオスなど、のちにG1を制した名馬が多数誕生。
2歳戦ながら将来のクラシックやマイル路線を占う“出世レース”として注目度が高く、東京芝マイルの舞台で素質馬たちが初めて激突する秋の名物重賞です。
アイルランドトロフィー
| グレード | G2 |
|---|---|
| 創設 | 2025年 |
| 開催競馬場 | 東京競馬場 |
| コース | 芝1,800m |
| 出走条件 | 3歳以上牝馬 |
| 負担重量 | 別定 |
| 1着賞金 | 5,500万円 |
アイルランドトロフィーは、東京競馬場で行われる芝1,800mのG2競走です。
前年まで「アイルランドトロフィー府中牝馬ステークス」として施行されていたG2戦の条件(開催時期・距離・負担重量など)をそのまま引き継いだレースで、名称が変わっただけですが公式上では創設という扱いがされています。
正賞はアイルランドの名門・レパーズタウン競馬場賞で、両国の競馬文化交流を象徴する国際的な牝馬重賞です。
出走資格は3歳以上の牝馬に限定され、秋の女王決定戦・エリザベス女王杯の重要なステップレースとして位置づけられています。
アイルランドトロフィー府中牝馬ステークス時代はディアドラ、サラキア、ブレイディヴェーグなど後にG1戦線で活躍した馬もこの舞台を制しており、秋の中距離牝馬路線を占う指標となる伝統と品格を備えた一戦です。
アルゼンチン共和国杯
| グレード | G2 |
|---|---|
| 創設 | 1963年 |
| 開催競馬場 | 東京競馬場 |
| コース | 芝2,500m |
| 出走条件 | 3歳以上 |
| 負担重量 | ハンデ |
| 1着賞金 | 5,700万円 |
アルゼンチン共和国杯は、東京競馬場で行われる芝2,500mのG2競走です。
1963年に日亜(日本・アルゼンチン)両国の友好を記念して創設され、当初は「アルゼンチンジョッキークラブカップ」として実施されました。
アルゼンチンジョッキークラブから優勝杯の寄贈を受けたのが始まりで、1975年から現在の名称に改称。
日本の国際交流競走としては最も古い歴史を持ち、アルゼンチン側では対応する競走「クラシコ・ジャポン」も行われています。
秋の東京開催を代表するハンデG2として位置づけられ、天皇賞(秋)後のステイヤー路線の重要ステップです。
これまでにスクリーンヒーロー、トーセンジョーダン、スワーヴリチャードなどG1馬が多数勝利しており、ジャパンカップや有馬記念を目指す馬たちの前哨戦として高い注目を集めています。
国名が付いた重賞レース名の由来とは?
日本の競馬で国名が冠されたレースは、単なるネーミングではなく“国際親善”を目的として誕生したものが多くあります。
その代表例が「アメリカジョッキークラブカップ」や「アルゼンチン共和国杯」で、どちらも相手国の競馬団体から優勝カップの寄贈を受けたことがきっかけです。
戦後、日本競馬が国際社会へ再び歩み出すなかで、海外の競馬関係者との交流を深める象徴としてこうした名称が広まりました。
レースを通じて友好を築くという意味合いを持ち、今も海外のジョッキークラブや大使館との関係が続いています。
国名の付いたレースには、単なる競技の枠を超えた“国と国をつなぐ架け橋”としての役割があり、競馬が国際的な文化交流の一端を担っていることを示しているのです。
海外の都市・競馬場名が付いたレースもある
国名だけでなく、海外の都市や競馬場名を冠したレースも存在します。
たとえば「シンガポールターフクラブ賞」は、2024年まで中京競馬場で開催されていたレースで、日本とシンガポールの競馬交流を記念して行われていました。
また、東京競馬場で11月下旬に開催される「キャピタルステークス」は、正式名称を「フランスギャロ賞キャピタルステークス」といい、フランスの競馬統括機関との友好を象徴しています。
さらに、JRAでは世界の競馬場名を冠したレースも行われています。
札幌の「キーンランドカップ」は、アメリカ・ケンタッキー州の馬産地にあるキーンランド競馬場にちなんでおり、日本の北海道と共通する“馬産地の絆”が込められています。
また、東京の「エプソムカップ」と阪神の「チャーチルダウンズカップ」は、それぞれ現地競馬場との提携に基づく親善レースとして位置付けられており、国際的な競馬交流を象徴する存在となっています。
世界の国名が付いた重賞レース一覧:まとめ
国名や都市名が付いたレースは、どれも単なる名称ではなく「国際交流」の象徴として存在しています。
アメリカやアルゼンチン、アイルランドなどのジョッキークラブから寄贈されたカップや友好関係をきっかけに誕生したレースは、今も日本競馬の歴史の中で大切に受け継がれています。
また、キーンランドやエプソム、チャーチルダウンズなど、世界の競馬場と連携したレースが開催されていることも、日本が世界の競馬文化と深く結びついている証といえるでしょう。
こうしたレース名には、競馬を通じて国境を越えた絆を築きたいという思いが込められており、国際社会の一員として発展を続ける日本競馬の歩みを象徴しているのです。

