日本の競馬では「ダービーに始まりダービーで終わる」といわれているように日本ダービーが1つの節目となっています。
その日本ダービーが終わると、いよいよ夏競馬に突入していくわけですが、実は夏競馬には、いつからいつまでとの定義がありません。
ただ、夏競馬とは、梅雨や猛暑といった厳しい条件下で開催されるため、他の時期に開催される競馬とは一味違います。
また、有力馬が休養に入ることで難解なレースが増え、その結果、荒れるレースにつながることもあります。
そこで今回は、そんな夏競馬について紹介していきたいと思います。
さらに普段とは違った夏競馬の特徴や傾向、夏の上がり馬なども合わせて紹介しますので、普段の競馬と比べてどのような部分が異なるのかなど、是非とも最後までお楽しみください。
夏競馬の特徴

一般的に人の世界で夏休みがあるように、競走馬の世界でもそれは同じです。
特にG1レースなど、春と秋の重賞レースを中心に活躍する競走馬の多くは、夏の時期にはレースに出走せず、休養にあてがいます。
いわゆる、有力馬の夏の休養といわれるもので、その多くが北海道など、比較的冷夏な生まれ故郷の牧場で過ごすことが多いです。
これは人間で言うところの帰省のようなイメージが分かりやすいかも知れません。
そんな有力馬たちが北海道に帰省する理由は、放牧をするためです。
放牧にて、レースでの疲れを癒し、リフレッシュすることで秋のレースに向けてコンディションの調整を行ないます。
なお、最近では競走馬専用のウォーキングマシンを導入している牧場では、軽めの調教などを行なうことも増えているようです。
その一方で夏のレースに出走せざるを得ない競走馬に夏休みはありません。
これは、主に重賞を勝利したことがない競走馬やまだまだ成長途中の3歳馬が該当します。
また、夏競馬の期間では、東京・中山・京都・阪神のJRA主要4場での開催はなく、新潟や小倉といったローカルの競馬場でレースが行われます。
その大きな理由は、主要競馬場の調整のためです。主要競馬場では、年間を通してかなりの頻度でレースが開催されています。
そのため、レースが開催されればされるほど芝の状態が悪化します。
仮にそのまま放置していると、競走馬の怪我につながるリスクが高くなるので、新たに芝の養生を行うため、主要競馬場は休ませる。その代替として、夏競馬はローカル競馬場での開催となっているのです。
そんな夏競馬の特徴として挙げられるのは、2歳馬が続々とデビューすることです。
実質的には、日本ダービー(G1)の翌週から2歳新馬戦が始まります。これは、冒頭にお伝えした通りで日本競馬のサイクルがダービーで始まり、ダービーで終わる所以にもなっています。
ただ、2歳馬は、夏競馬にデビューすることが多く、さらには、2歳新馬といったレース名が番組に構成されていることで春競馬になかった真新しいイメージが、夏競馬イコール2歳新馬戦といった感がありますね。
また、夏競馬の特徴としては、有力馬不在により、実力が均衡している競走馬同士の戦いが目立ちます。その結果、配当的に荒れる傾向がみられます。
そして、荒れるレースが頻繁にみられるため、馬券が当たらない。そうすると、夏競馬は難しい、当たらないから、つまらないとなるわけです。
しかし、夏競馬には夏競馬しかない面白さ、楽しみ方がありますので、それは後述する「夏競馬の傾向とは?」にてお伝えします。

夏競馬の期間とは?

夏競馬を大きく括ると、JRAが主催する毎年夏に行われる開催を指し、期間は6月末から8月末頃とされています。
ただ、冒頭にもお伝えした通り、公式的に夏競馬の時期は特に決められていないようですが、競馬ファンの間では、以下の2通りが認識されているようです。
1つ目は、宝塚記念(G1)の翌週、もしくは函館が開催される6月2週目の翌週から新潟記念(G3)が開催される週まで。これは、前述の通り、ローカルの競馬場のみで行われる時期を夏競馬とするケースです。
ちなみにローカルの競馬場とは、札幌・函館・福島・新潟・中京・小倉の6場を指します。
2つ目は、函館スプリントステークス(G3)が行われる週からセントウルステークス(G2)の週までとされています。
これは、後ほど紹介しますが、サマースプリントやマイル、サマー2000シリーズといった夏競馬期間限定で実施されるサマーシリーズの開催期間内を夏競馬とするケースです。
よって、期間に関しては、宝塚記念の翌週、もしくは函館が開催される6月2週目を夏競馬の開始にするケースと、新潟記念の週もしくは翌週のセントウルステークス(G2)or京成杯オータムハンデ(G3)の週を夏競馬の終わりとするケースとなります。
ただし、JRA側では、日本ダービー終了後から夏競馬が開催される競馬場でのレースが始まっていますが、春競馬のレースも開催されています。
よって、春競馬のレースが完全に終わる宝塚記念以降からのレースを夏競馬と認識、そのため、夏競馬の基準は、競馬場にあるようです。
そう考えると、夏競馬が開催される競馬場でのレースが始まっていたとしても、主要競馬場でのレースが開催されているうちは夏競馬に該当しないことになりますので、夏競馬が始まるのは春競馬の開催が終了する宝塚記念以降という認識なのかも知れません。
ただ、いずれにしましても公式的には、夏競馬の定義がありませんので、そこまで気にする必要もないでしょう。
夏競馬の傾向とは?

夏競馬では、G1レースが開催されない代わりにG2やG3といったレースが多く組まれています。
さらにJRAが、夏競馬開催を盛り上げるために2006年よりサマーシリーズと銘打って取り組みを始めました。
競走馬に対するサマー2000シリーズを始めとする3つの距離別シリーズと騎手に対するサマージョッキーズシリーズからなり、それぞれのシリーズ優勝者には、報奨金が与えられ、毎年注目を集めています。
それでは、各シリーズの詳細を順に説明していきます。
まずは、サマー2000シリーズ対象レースを以下の表にまとめましたので、ご覧ください。
サマー2000シリーズ(報奨金:馬主3,200万円、厩舎関係者800万円)
レース名 | 開催競馬場 | コース・距離 | 開催日 |
---|---|---|---|
農林水産省賞典 函館記念(G3) | 函館競馬場 | 芝2,000メートル | 6月29日(日) |
七夕賞(G3) | 福島競馬場 | 芝2,000メートル | 7月13日(日) |
農林水産省賞典 小倉記念(G3) | 小倉競馬場 | 芝2,000メートル | 7月20日(日) |
札幌記念(G2) | 札幌競馬場 | 芝2,000メートル | 8月17日(日) |
農林水産省賞典 新潟記念(G3) | 新潟競馬場 | 芝2,000メートル | 8月31日(日) |
表をみていただくとお分かりの通り、函館競馬場での函館記念、福島競馬場での七夕賞、小倉競馬場での小倉記念、札幌競馬場での札幌記念、新潟競馬場での新潟記念と、それぞれのローカル競馬場で1レースずつ行われ、合計5レースの成績に応じてポイントが与えられます。
そのポイントとは、以下の表の通りとなります。
競走 | 1着 | 2着 | 3着 | 4着 | 5着 | 6着以下 |
---|---|---|---|---|---|---|
G2競走 | 12 | 6 | 5 | 4 | 3 | 1 |
G3競走 | 10 | 5 | 4 | 3 | 2 | 1 |
L競走 | 8 | 4 | 3 | 2 | 1 | 1 |
各シリーズ対象競走における着順に応じて、下表のとおり点数を1競走毎に与え、その合計得点がサマースプリントシリーズおよびサマー2000シリーズについては13点以上、サマーマイルシリーズについては12点以上であり、かつ、各シリーズ対象競走において1勝以上した馬の中から、合計得点が最上位の馬をシリーズチャンピオンとする。なお、合計得点が最上位の馬が複数頭いる場合は、それぞれの馬をシリーズチャンピオンとする(JRAホームページより抜粋)
よって、全戦終了時にもっとも多くポイントを獲得した競走馬が優勝となり、表に記載の通り、褒賞金を手にすることとなります。
これが夏競馬を戦う競走馬、管理する陣営にとって、1つのモチベーションになるかも知れませんね。
続いて、1,000メートルと1,200メートルといった短距離戦で競い合うサマースプリントシリーズ、1,600メートル限定のサマーマイルシリーズの対象レースも以下の表にまとめました。
サマースプリントシリーズ(報奨金:馬主3,200万円、厩舎関係者800万円)
レース名 | 開催競馬場 | コース・距離 | 開催日 |
---|---|---|---|
函館スプリントステークス(G3) | 函館競馬場 | 芝1,200メートル | 6月14日(土) |
テレビ西日本賞 北九州記念(G3) | 小倉競馬場 | 芝1,200メートル | 7月6日(日) |
アイビスサマーダッシュ(G3) | 新潟競馬場 | 芝1,000メートル | 8月3日(日) |
CBC賞(G3) | 中京競馬場 | 芝1,200メートル | 8月10日(日) |
キーンランドカップ(G3) | 札幌競馬場 | 芝1,200メートル | 8月24日(日) |
産経賞 セントウルステークス(G2) | 阪神競馬場 | 芝1,200メートル | 9月7日(日) |
サマーマイルシリーズ(報奨金:馬主2,400万円、厩舎関係者600万円)
レース名 | 開催競馬場 | コース・距離 | 開催日 |
---|---|---|---|
しらさぎステークス(L) | 阪神競馬場 | 芝1,600メートル外 | 6月22日(日) |
関屋記念(G3) | 新潟競馬場 | 芝1,600メートル外 | 7月27日(日) |
中京記念(G3) | 中京競馬場 | 芝1,600メートル | 8月17日(日) |
京成杯オータムハンデキャップ(G3) | 中山競馬場 | 芝1,600メートル外 | 9月6日(土) |
このようにサマーシリーズは、この時期にしか楽しめない取り組みとなっています。
一方で騎手同士が争うサマージョッキーズシリーズは、上記の表に記載している各レース、全15レースでの総合獲得ポイントが、もっとも多かった騎手が優勝となります。なお、ポイントの計算方法は、上記のポイント表と同じです。
ただし、優勝の条件には、1勝以上した騎手とありますので、2着ばかりでポイントが最上位になったとしても0勝だった場合は、優勝できないことになっています。
そして、見事、優勝に輝いた騎手には、報奨金100万円および30万円相当の賞品が授与されます。こちらも各騎手のモチベーションにつながるのではないでしょうか。
なお、この2つのシリーズは、通常のレースとは異なり、シリーズでの合計ポイントが基準となります。また、夏競馬期間内での短期決戦でもあり、この時期だけに特化したシリーズです。
毎年大きな注目を集めていますので、是非とも夏競馬の一環として注目してみてください。
夏の上がり馬とは?

競馬ファンが使う用語のひとつに「夏の上がり馬」という言葉があります。
これは夏季に開催されるG2やG3レースを経て力を付けG1クラスに昇格し、秋の重賞レースに出場するようになった競走馬のことを指します。
競馬ファンの間では「夏の連勝馬の勢いは買え」という格言もあるように夏の上がり馬は特に注目されており、夏の終わりには今年の上がり馬はどの馬か、というような話題で競馬ファンの間で盛り上がることも大いにあります。
そんな夏の上がり馬の代表的な競走馬といえば、なんといってもメジロマックイーンでしょうか。
1987年に生を受けたメジロマックイーンは、遅咲き血統だったため、デビューが遅く、同世代の競走馬たちが凌ぎを削り世代頂点を争う日本ダービーの頃、まだ1勝馬に過ぎない競走馬でした。
特に同期で同じ牧場出身のメジロライアンが、日本ダービーで2着に入る活躍をみせていた頃だっただけに余計に悔しい思いをしたのかも知れません。
その後、メジロマックイーンは、9月に条件戦を連勝するも菊花賞本番では、3勝クラスのままで出走することになります。それでもレースでは、4番人気に支持され、見事、菊花賞を制覇しました。まさに夏の上がり馬の代名詞といっても過言ではありませんね。
さらに1995年の菊花賞と有馬記念を一気に制し、年度代表馬に輝いたマヤノトップガンも夏の上がり馬といえるでしょう。
マヤノトップガンも3歳夏の時点では、2勝クラスを勝ち上がったばかりでした。その後、神戸新聞杯(G2)と京都新聞杯(G2)で連続2着から菊制覇となりました。
また、近年に目を向けてみると、2014年の菊花賞を高速レコード決着で制したトーホウジャッカルは、追加登録料200万円を支払い、デビュー149日目での菊制覇となり、鞍上の酒井学騎手も嬉しいG1初制覇を成し遂げました。
デビューから約5ヶ月で世代の頂点に立ったとなれば、まさに夏の上がり馬そのものといえるでしょう。なお、この時の1番人気で日本ダービー馬のワンアンドオンリーは9着に敗退しています。
2010年の菊花賞馬ビッグウィークは、1番人気だったローズキングダムを抑え、バゴ産駒としてG1初制覇。鞍上の川田将雅騎手も菊花賞初制覇となりました。
また、2009年の菊花賞馬スリーロールスは、夏に2勝クラスを制したばかりでした。菊花賞には、3勝クラスの条件馬として8番人気で出走し、優勝したことは、まさに夏の上がり馬に相応しい活躍です。
なお、鞍上の浜中俊騎手は、デビュー3年目でG1初制覇となり、2着に入った7番人気のフォゲッタブルとのワンツーは、馬連9,410円とダンスインザダーク産駒の2頭が波乱呼ぶ結果となりました。
さらに2008年の菊花賞馬オーケンブルースリも4月26日のデビューから184日で菊花賞制覇を果たしたことでトーホウジャッカルと同じくスピード出世です。
このようにのちに語り継がれるほどの名馬誕生も夏の上がり馬の醍醐味ともいえます。
また、お気付きの方もいると思いますが、今回、夏の上がり馬として取り上げた競走馬は、すべて菊花賞馬に輝いています。
是非とも、この夏競馬では、夏の上がり馬に注目し、未来の菊花賞馬を探してみてはいかがでしょうか。
夏競馬とは?のまとめ

今回は、夏競馬の特徴や開催時期、傾向、夏の上がり馬を紹介しました。
文中にも時折、記載しましたが、夏競馬は、春競馬や秋競馬に比べると馬券的には、難解なレースが多いのは確かです。ただ、夏競馬でしか行われないサマーシリーズやこの時期を境に力を付けてくる競走馬、そして、翌年のクラシック戦線を盛り上げることになる2歳馬のデビューなど、また違った楽しみ方ができるのも夏競馬の特徴です。
それぞれ違った楽しみ方がある夏競馬の面白さが少しでも、この記事によって伝われば、幸いです。