サラブレッドには8種類の毛色が存在しているといわれていますが、その中でも特に稀少なのが【白毛馬(しろげうま)】です。
白毛馬はピンク色の肌がうっすら見えるほど全身が真っ白い馬のことで、美しい馬体と珍しさから印象深いです。
しかし、白毛馬は滅多に生まれることがなく、長きにわたる日本競馬でもその数は100頭もいません。
それでも、近年はG1をはじめ、重賞レースを勝利したことで注目度も高まっています。
今回は白毛一族の特徴や家系図、有名な白毛馬の一覧に白毛馬に関するQ&Aをまとめました。
少しでも白毛馬に興味のある方の参考になれたら幸いです。
白毛一族の歴史と家系図

2025年5月の時点で日本競馬で馬名登録された白毛馬は50頭いました。
初めて確認された白毛馬が1979年のハクタイユーで、そこから半世紀弱立った段階でも50頭しかいないことから、希少性の高さが分かります。
最初に、日本競馬における白毛馬の歴史と家系図について解説します。
日本競馬最初の白毛馬 ハクタイユー
日本競馬で初めて白毛馬と認められたのが1979年生まれのハクタイユーです。
ハクタイユーの父であるロングエースは1972年の日本ダービーを制した黒鹿毛馬で、母は栗毛のホマレブルだったので、突然変異の白毛馬でした。
現役時代は1勝もせずに引退しましたが、その物珍しさから種牡馬入りし、白毛の仔が産まれたものの、活躍には及ばずにその血筋は途絶えました。
白毛馬の転換期となったのは日本競馬で6番目に産まれたシラユキヒメです。
現在まで血筋が続くシラユキヒメ一族
シラユキヒメは1996年生まれの競走馬です。
父サンデーサイレンスは青鹿毛馬、母のウェイブウインドは鹿毛馬だったので、ハクタイユーと同じく突然変異で生まれた競走馬です。
現役時代は500万下の3着が最高着順で、勝利はありませんでしたがその物珍しさと血統背景を評価され、繁殖入りしています。
繁殖入りしたシラユキヒメは12頭の子宝に恵まれました。
このうち、3番仔のユキチャンは交流重賞を3勝し、魚目のオッドアイで有名な10番仔のシロニイは3勝クラス止まりでしたが、最近まで長距離レースに出走していたので名前を目にしたことがある人も多いでしょう。
9番仔のブチコはオープンクラスまで上り詰めた馬で、白毛馬の中でも珍しいダルメシアン柄のブチ模様で多くのファンがいました。
そして、ブチコの初年度産駒であるソダシはG1競走の阪神JFと桜花賞、ヴィクトリアマイルを優勝し、白毛馬初のG1馬として競馬史に名前を刻んでいます。
2025年5月末時点で登録されている白毛馬50頭のうち、28頭がシラユキヒメの子孫です。
シラユキヒメが強い白毛馬の開祖といえるでしょう。
有名な白毛馬一覧

2025年5月の時点で活躍している白毛馬は複数います。
ここからは、白毛馬の中から特に人気と知名度、実績のある馬を5頭紹介します。
ソダシ

生年月日 | 2018年3月8日 |
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性別 | 牝 |
父 | クロフネ |
母 | ブチコ |
母父 | キングカメハメハ |
生産牧場 | ノーザンファーム |
戦績 | 16戦7勝 |
主な勝ち鞍 | 桜花賞(G1) 2021年 ヴィクトリアマイル(G1) 2022年 阪神JF(G1) 2020年 札幌記念(G2) 2021年 札幌2歳ステークス(G3) 2020年 アルテミスステークス(G3) 2020年 |
獲得賞金 | 6億2,923万4,000円 |
登録抹消日 | 2023年10月5日 |
白毛馬として初めてのG1制覇を成し遂げたのがソダシです。
デビュー時から無敗の4連勝で阪神JFを優勝し、翌年はぶっつけで桜花賞に挑み、G1制覇を成し遂げました。
白毛馬初のG1馬&初のクラシック制覇のみならず、その見映えする白い馬体が多くの競馬ファンに注目され、一時はソダシのアイドルホースぬいぐるみが転売の対象になるほどでした。
古馬になってからは血統背景からマイルに照準を定め、ヴィクトリアマイルも優勝しています。
2023年の安田記念を最後に引退し、ノーザンファームで繁殖牝馬入りしました。
ハヤヤッコ

生年月日 | 2016年2月10日 |
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性別 | 牡 |
父 | キングカメハメハ |
母 | マシュマロ |
母父 | クロフネ |
生産牧場 | ノーザンファーム |
戦績 | 45戦7勝 |
主な勝ち鞍 | アルゼンチン共和国杯(G2) 2024年 レパードステークス(G3) 2019年 函館記念(G3) 2022年 |
獲得賞金 | 3億614万円 |
登録抹消日 | 2025年6月10日 |
ハヤヤッコは9歳まで現役で活躍した白毛の牡馬で、最終的に手にした重賞は3つです。
2019年のレパードステークスを優勝し、白毛馬初のグレード重賞を勝利した馬となりました。
その後もタフな函館記念を勝利したり、8歳時に挑んだアルゼンチン共和国杯では追込一気の競馬で優勝し、晩年も重賞で結果を残しました。
しかし、2025年の目黒記念でレース中に右前浅屈腱不全断裂を発症したため、6月に引退が発表されました。
その後の動向は2025年の6月の段階で分かりませんが、人気の白毛馬なので、どこかで活躍するでしょう。
アマンテビアンコ

生年月日 | 2021年1月25日 |
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性別 | 牡 |
父 | ヘニーヒューズ |
母 | ユキチャン |
母父 | クロフネ |
生産牧場 | ノーザンファーム |
戦績 | 5戦3勝 |
主な勝ち鞍 | 羽田盃(Jpn1) 2024年 |
獲得賞金 | 8,330万1,000円 |
アマンテビアンコは2021年生まれの競走馬で、Jpn1昇級後の羽田盃を優勝しました。
この年の羽田盃は8頭立ての少頭数でしたが、のちにJBCレディスクラシックを勝利するアンモシエラとの叩き合いを制して優勝しています。
Jpn1をG1とするならば、ソダシ以来、2頭目となる白毛馬のG1馬です。
ただ、その後は骨瘤が判明し、秋には屈腱炎を発症したため、2025年6月現在、復帰は未定となっています。

ユキチャン

生年月日 | 2005年3月28日 |
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性別 | 牝 |
父 | クロフネ |
母 | シラユキヒメ |
母父 | サンデーサイレンス |
生産牧場 | ノーザンファーム |
戦績 | 17戦5勝 |
主な勝ち鞍 | 関東オークス(Jpn2) 2008年 クイーン賞(Jpn3) 2009年 TCK女王盃(Jpn3) 2010年 |
獲得賞金 | 1億2,628万7,000円 |
登録抹消日 | 2009年9月3日(JRA) |
ユキチャンはシラユキヒメの3番仔です。
白毛馬としては初となる芝レースの勝ち馬で、2008年の関東オークスを逃げて勝利し、白毛馬初となる重賞制覇を成し遂げています。
その後もダートレースで活躍し、最終的には3つの交流重賞タイトルを手にして引退しています。
引退後は繁殖牝馬入りし、2025年の時点で9頭の産駒に恵まれました。
このうち、7番仔のアマンテビアンコが2024年の羽田盃を制しています。
ブチコ

生年月日 | 2012年4月27日 |
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性別 | 牝 |
父 | キングカメハメハ |
母 | シラユキヒメ |
母父 | サンデーサイレンス |
生産牧場 | ノーザンファーム |
戦績 | 16戦4勝 |
主な勝ち鞍 | 上総ステークス(1,600万下) 2016年 |
獲得賞金 | 6,419万7,000円 |
登録抹消日 | 2017年1月19日 |
ブチコは馬体にダルメシアン柄のブチ模様が入った白毛馬として注目を集めました。
競走馬の毛色に斑毛(ぶちげ)は存在しないため、白毛馬として登録されています。
現役時代は1,600万条件(現在の3勝クラス)を勝利してオープン入りしましたが、気性難が災いし、2016年のマリーンカップでは発走ゲートを飛び出してラチに激突して出血するほどでした。
その後もゲートをくぐるなど、発走前の課題が何度も見られたため、引退しています。
しかしながら、引退してからは繁殖牝馬としての素質を開花しました。
初年度産駒のソダシは桜花賞をはじめ、G1を3勝し、2番仔のママコチャもG1のスプリンターズステークスを制しています。

白毛を継がなかった白毛一族の有名馬

歴代の競走馬を見てみると、先祖が白毛馬にもかかわらず、白毛を遺伝しなかった名馬も何頭かいます。
ここからは、白毛ではない白毛一族の有名馬を2頭紹介します。
ママコチャ

生年月日 | 2019年4月5日 |
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性別 | 牝 |
父 | クロフネ |
母 | ブチコ |
母父 | キングカメハメハ |
生産牧場 | ノーザンファーム |
戦績 | 21戦7勝 |
主な勝ち鞍 | スプリンターズステークス(G1) 2023年 オーシャンステークス(G3) 2025年 |
獲得賞金 | 4億5,953万7,000円 |
ママコチャは母がブチ模様のブチコ、その母はシラユキヒメ、全姉はソダシという白毛一族です。
白毛は50%の確率で仔に遺伝するといわれていますが、ママコチャは鹿毛馬として生まれたので遺伝しませんでした。
それでも、古馬になってから挑んだスプリンターズステークスを勝利していることから、白毛一族特有のポテンシャルの高さは引き継いでいます。
2025年6月の段階で現役馬ですが、今年度も安定したパフォーマンスを維持しているので、まだまだ活躍に期待できそうです。
メイケイエール

生年月日 | 2018年2月23日 |
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性別 | 牝 |
父 | ミッキーアイル |
母 | シロインジャー |
母父 | ハービンジャー |
生産牧場 | ノーザンファーム |
戦績 | 20戦7勝 |
主な勝ち鞍 | チューリップ賞(G2) 2021年 京王杯スプリングカップ(G2) 2022年 セントウルステークス(G2) 2022年 小倉2歳ステークス(G3) 2020年 ファンタジーステークス(G3) 2020年 シルクロードステークス(G3) 2022年 |
獲得賞金 | 3億4,305万7,200円 |
登録抹消日 | 2024年3月27日 |
メイケイエールは鹿毛馬の競走馬ですが、母のシロインジャーが白毛でその母がユキチャン、さらに母がシラユキヒメなので母方が白毛一族です。
現役屈指の気性難と知られ、桜花賞で全く折り合いを欠いて最下位に敗れてからは短距離にシフトしました。
短距離では勢いに乗った競馬で最終的には6つの重賞タイトルを手にしましたが、残念ながらG1まで及びませんでした。
それでも前哨戦では強い競馬で勝ち切っていたことから能力の高さは健在で、引退後は繁殖牝馬として第二の馬生を送っています。
白毛馬に関するQ&A

ここからは、多くの競馬ファンが気になるであろう白毛馬に関するQ&Aをまとめました。
- 白毛馬が産まれる確率は何%?
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突然変異で生まれる確率は1万頭~2万頭のうちの1頭といわれており、確率にすると0.0001%以下となります。
1年間で生産されるサラブレッドが8,000頭弱なので、3年に1頭くらいの確率で白毛馬が産まれる計算です。
ただし、白毛は両親から遺伝するため、父方もしくは母方どちらかが白毛の場合は50%の場合で産駒も白毛馬になります。
G1馬のソダシとママコチャはどちらも母方が白毛のブチコでしたが、ソダシは白毛なのでブチコの遺伝子を引き継ぎました。
対して、ママコチャは鹿毛馬なのでブチコの遺伝子を引き継げませんでした。
- 白毛馬とアルビノは違う?
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白毛馬はアルビノではありません。
アルビノは皮膚や髪、目の色を生成するメラニン色素を成績できないため、通常とは異なる色になります。
白毛馬はメラニン色素こそ少ないものの、目は正常の色なのでメラニン自体は生成できます。
- ゴールドシップは白毛馬?芦毛馬との違いは?
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無尽蔵なスタミナと気性難で多くのファンに愛されたゴールドシップは芦毛馬です。
芦毛馬は灰色がかった馬体が特徴で、歳を重ねるにつれて白が目立つようになります。
ゴールドシップの場合は他の芦毛馬よりも白くなるのが早く、種牡馬入りしている現在は真っ白ですが、デビュー時は灰色だったので芦毛馬です。
白毛馬はデビュー前から真っ白なので、若い時の毛色で違いが分かります。
- 白毛馬の多くが金子真人オーナーの馬である理由は?
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白毛系統を確立したシラユキヒメの馬主が金子真人オーナーだったからです。
シラユキヒメは父がサンデーサイレンスの良血馬なので、金子真人オーナーが所有するキングカメハメハやクロフネとの交配が行いやすく、その結果、さらなる良血馬が誕生しました。
一説にはオーナーが白毛にほれ込んだという意見や、強い白毛の生産に力を入れたという話もありますが、これまで所有した馬の歴史を振り返ると、これも間違いではなさそうです。
- 白毛馬が弱いといわれた理由は?
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考えられる理由はふたつあります。
ひとつはたまたま強い馬がいなかったことが挙げられます。
はじめて日本競馬で確認されたハクタイユー以降、白毛馬は重賞勝ち馬どころか勝ち鞍すらあげられませんでした。
その日々が長く続いたことが白毛馬=弱いと定着付いたのです。
しかし、ブチコの仔であるソダシがG1を制してからは、白毛=弱いというジンクスは打破されました。
そして、もう一つは白毛が遠目からも目立つことが挙げられます。
ソダシが挑んだオークスは18頭立てのレースで1頭だけ真っ白だったので遠めに見てもどこにソダシがいるのか一目瞭然でした。
また、ソダシはこれまで無敗ということでマークの対象となり、レースを振り返っても他馬に包まれながら競馬で最終的には8着に沈んでしまいました。
血統やその後の戦績を見る限り、芝2,400mの舞台が長かった可能性はありますが、凡走の背景にはマークも影響したかもしれません。
余談ですが、かつては「芦毛馬も走らない」と言われていましたが、こちらも白毛馬同様マークしやすい対象だったことが挙げられます。
しかしながら、80年代末に活躍した芦毛のオグリキャップとタマモクロスの活躍により、下馬評は払拭されました。
白毛一族のまとめ

今回は白毛一族についてまとめました。
白毛一族は全毛色の中でも数が少なくて気性ですが、近年はソダシの活躍もあり、白毛の知名度も上がっています。
また、強い白毛馬の祖といえるシラユキヒメが優秀な白毛馬を残したことで、今後はターフで白毛馬を見る機会が増えることでしょう。
今後も白毛馬の活躍に期待したいですね。