競馬におけるOCDとは?症状や原因、治療法を紹介【OCDを乗り越えた名馬も紹介】

競走馬は様々な病気やケガがありますが、その中でも今回解説するOCD(離断性骨軟骨症)はなかなか聞き馴染みがない競馬ファンも多いかもしれません。

この記事ではOCDの症状や発症の原因、治療方法、さらにOCDを乗り越えて活躍した馬について解説します。

目次

OCDとは?症状や原因について

OCD(Oseteochondritis Dissecans)は【離断性骨軟骨症】とも言われる、​競走馬の成長期において見られる骨の病気で、特に下記の部分で発症しやすいのが特徴です。

  • 飛節〜後肢の関節で、最も多くOCDが発症する箇所
  • 球節〜前肢や後肢の関節
  • 膝・肩関節〜飛節や球節に比べると発症は稀

OCDの症状

OCDは骨の成長過程の中で軟骨が正常に化骨せず、その一部が壊死や剥離する状態のことで、場合によっては関節軟骨や剥離した小さな骨片が遊離軟骨として関節内に留まることで炎症を起こし痛みが生じたり、関節の動きに影響を与える病気です。

その症状は程度によっては様々です。

  • 無症状
  • 軽度の場合
  • 重度の場合

無症状

競走馬登録などの検査の際、たまたまレントゲン検査でOCDが発見される場合が多く、痛みやハ行が全く見られない。

軽度の場合

患部の関節の腫れや熱感が見られるものの、痛みやハ行は見られない。

重度の場合

患部の炎症や関節液の増加により、明らかに痛がる素振りやハ行が見られ、運動能力に著しく影響が出る。

OCDの原因

根本的なOCD発症の原因は明らかになっていないものの、主に下記の原因が重なり発症すると考えられるとされています。

  • 急速な成長によるもの
  • 運動負荷によるもの
  • 栄養バランスによるもの

急速な成長によるもの

競走馬は当歳から2歳の間に急速に成長しますが、その間、骨や軟骨の成長度合いが筋肉などの他の部位に追いつかない場合があります。

軟骨が成長してしっかりとした骨になる、化骨が完了していない状態でトレーニングを開始すると、軟骨同士が摩耗し削れ、そこで剥離した骨片が関節内に留まることで発症します。

運動負荷によるもの

走行時にはおよそ1tもの負荷が脚にかかると言われている競走馬ですが、骨の成長が進んでいない若駒は運動負荷によってもOCDを発症する可能性があります。

先ほど解説したとおり、競走馬は当歳〜2歳の間に急速に成長します。この育成期に過度な運動負荷を与えてしまうこともOCD発症の原因の1つです。

栄養バランスによるもの

正常な骨の成長を促すカルシウムやリン、銅やセレンの不足もOCDの発症に影響を与えると言われています。

特にカルシウムやリン、マグネシウムなどの多量元素と言われる栄養素は競走馬の成長にとって要求量が多く、積極的に接種しなければいけないかつ、不足しやすい栄養素です。

しかし、現在ではサプリメントやミネラルがバランスよく配合された飼料も存在するため、ここ最近では栄養バランスによるOCDの発症する例は少ないでしょう。

OCDの治療方法

OCDの治療方法はその程度によって下記のとおりに分けられます。

  • 保存療法
  • 関節鏡による摘出手術

保存療法

程度が軽い場合は、運動を制限し、安静にさせることで自然治癒を促します。

およそ60日間の馬房内またはパドック休養で治癒するとされており、その間、患部にヒアルロン酸を注射し、炎症を抑える場合もあります。

関節鏡による摘出手術

関節内に剥離した小さな骨片があり、運動に影響を及ぼすほどの症状が出ている場合、外科的治療として関節鏡を使い、その骨片を除去します。

特にレントゲン検査において欠損箇所が2㎝以上または深さが5mm以上が確認された場合においては手術が推奨されています。

術後は3〜4ヶ月で回復し、予後は良好な場合が多いです。

OCD発症の影響と予後について

気になるOCD発症後の予後について解説します。

たとえ発症しても予後は良好な場合が多い

結論として、早期に発見し適切な治療と手術を行えば、競走能力に大きな影響はないとされています。

後ほど解説しますが、実際にOCD手術を受けた競走馬が重賞勝利をおさめる例も多くあります。

強いて悪影響をあげるとするならば、デビュー前に発症することが多いOCDですが、発症した場合は調教を中止し、少なからず休養が必要とされるため、デビューまでに十分なトレーニングが行えなえず育成が遅れ、それに伴ってデビュー時期が他の馬に比べるとやや遅くなることでしょう。

肩関節での発症は要注意

競走能力に大きな影響を与えることはないとされているOCDですが、肩関節に発症した場合は注意が必要です。

OCDはレントゲン検査で発症が判明することが多いものの、肩関節は元々レントゲン検査で移りにくい部位と言われており、肩関節に発症した場合、発見が遅れる場合があります。

また肩関節は関節鏡による摘出手術が他の部位に比べると困難であり、さらに大掛かりな手術が必要になるため、その分療養期間を要し、競走能力や成長が阻害されることが懸念されます。

OCDを乗り越えた名馬

この章では、OCDを乗り越え活躍した、または活躍している競走馬を紹介します。

  • ヴェラアズール
  • クルーガー
  • アスコリピチェーノ

ヴェラアズール

生年月日2017年1月19日
性別
エイシンフラッシュ
ヴェラブランカ
母父クロフネ
生産牧場白老ファーム
戦績27戦6勝
主な勝ち鞍ジャパンカップ(G1) 2022年
京都大賞典(G2) 2022年
獲得賞金5億4,968万円
登録抹消日2023年12月6日

OCD除去手術の影響でデビューが3歳3ヶ月で遅れたヴェラアズール。

デビューから堅実な走りをみせて5歳時にオープン入りを果たし、これまで活躍していたダート戦線から、主戦場を芝に移します。初めての芝レースだった淡路特別(2勝クラス)を制覇した後も、3着・3着と善戦し、その後ジューンステークス(3勝クラス)、京都大賞典(G2)、ジャパンカップ(G1)を優勝し、見事G1ホースの仲間入りを果たします。

ダート戦線から主戦場を芝に変えG1レースを優勝という、珍しい戦績を持った馬と言えるでしょう。

クルーガー

生年月日2012年4月26日
性別
キングカメハメハ
アディクティド
母父ディクタット
生産牧場ノーザンファーム
戦績27戦6勝
主な勝ち鞍マイラーズカップ(G2) 2016年
ダービー卿チャレンジトロフィー(G3) 2020年
獲得賞金2億9万6,000円
登録抹消日2020年12月24日

OCD手術を経験したものの、2歳の時にデビューを果たしたクルーガー。

デビューから10戦で【4-2-2-2】、掲示板を外したのは1度だけという安定した活躍をみせ、11戦目の読売マイラーズカップ(G2)にて初重賞制覇。その後富士ステークス(G3)3着や京都金杯(G3)2着、豪州クイーンエリザベスステークス(G1)2着と結果を残します。

骨折などの影響もあり、なかなか勝ちきれないレースが多かったものの、晩年はダービー卿チャレンジトロフィー(G3)を制したり、2019年のオーストラリアで開催されたクイーンエリザベスステークス(G1)ではオーストラリア競馬最強牝馬であるウィンクスの2着に入線し、重賞でも活躍していました。

現在では異国の地トルコにて種牡馬生活を送っています。

アスコリピチェーノ

生年月日2021年2月24日
性別
ダイワメジャー
アスコルティ
母父Danehill Dancer
生産牧場ノーザンファーム
戦績8選5勝
主な勝ち鞍阪神JF(G1) 2023年
1351ターフスプリント(G3) 2025年
新潟2歳ステークス(G3) 2023年
京成杯オータムハンデ(G3) 2024年
獲得賞金2億6,609万7,200円
2025年2月24日時点の情報です

アスコリピチェーノがOCDを発症、摘出手術を行なったのはまだ生まれて9ヶ月も経過していないころでした。

早い時期に除去手術ができたため、2歳6ヶ月でのデビューと、大きくデビューが遅れることはなく、新馬戦、新潟2歳ステークス(G3)、阪神JF(G1)を立て続けに制覇。翌年の桜花賞(G1)、NHKマイルカップ(G1)は2着と惜敗するものの、秋の京成杯オータムハンデ(G3)1着の後、初の海外遠征となった豪州での競馬を経験しました。

2025年2月23日、サウジアラビアで開始された1351ターフスプリント(G2)では、マイル戦線で活躍しているアスコリピチェーノにとって距離が足りないのでは、という前評判を跳ね除け、見事優勝。今後のさらなる活躍が楽しみな1頭です。

OCDのまとめ

ここまで、OCDについて症状や原因、治療方法などとあわせOCDを乗り越えた名馬を解説してきました。

解説したとおり、OCDは早期に発見、対処できれば競走馬にとって与える影響はそれほど大きくなく、たとえ除去手術をしたとしてもその馬本来の力を発揮できる場合が多いでしょう。

とはいえ、一口馬主やPOGでは万が一のリスクを考えOCDを発症した馬を選ばないというのも、1つの選択肢とも言えるでしょう。

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