サラブレッドが競走生活を送るうえで、さまざまなケガや病気に悩まされることは珍しくありません。
その中でも【骨瘤(こつりゅう)】は、名馬も経験する可能性がある代表的な怪我です。
特に骨瘤は若い馬や激しいトレーニングを行う馬に多く見られるため、関係者は慎重に競走馬の育成に育んでいます。
本記事では、骨瘤の主な原因や治療法、完治までにかかる期間を詳しく解説するとともに、実際に骨瘤を経験した名馬のエピソードについてまとめました。
骨瘤とはどんな病気?読み方や原因、症状を解説
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そもそも、骨瘤がどのような病気なのか良く分からないという方もいるでしょう。
最初に、骨瘤の読み方やどのような病気なのか、原因や症状について解説します。
骨瘤の読み方
冒頭でも少し触れていますが、骨瘤は【こつりゅう】と読みます。
患部の炎症による腫れや、繰り返される軽い骨折とその回復などによる骨の異常形成によって瘤(こぶ)のようになって表面にあらわれることから、このように名付けられました。
骨瘤の原因
骨瘤の直接的な原因は、反復的な運動負荷が脚部にかかることによるものです。
しかし、同じ運動負荷が原因でも、細かく分けると下記のとおり2つの原因が存在します。それぞれ解説します。
- 患部の炎症
- 骨の異常形成
患部の炎症
繰り返されるトレーニングにより、繋靱帯と管骨周辺に負荷がかかり、患部が腫れることも骨瘤の原因の1つです。
反復的に運動負荷がかかり続けることで、管骨が繋靱帯に引っ張られ裂傷し、炎症を起こします。
その炎症が腫れとなって患部にあらわれ骨瘤と診断されますが、この程度が重度の場合は【繋靱帯炎】と診断されることもあります。
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骨の異常形成
骨瘤は、骨の異常形成によっても引き起こされる場合があります。
骨にかかるストレスそのものが原因で引き起こされる骨瘤の多くは、主に1歳や2歳などの成長途中の若い馬にみられます。
その原因として、成長過程に訪れる、骨組織が形成される【化骨】途中に過度な運動負荷をかけたことにより、その強度に耐えるため、より強い骨を形成しようという骨増生のベクトルがはたらき、その部分が太く成長し瘤になるためです。
成長過程にある馬の骨瘤を防ぐためには、トレーニング前後の歩様チェックや、成長度合いに見合った無理のないトレーニングメニューを行う必要があります。
骨瘤の症状
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競走馬の骨瘤の症状は大きく分けて下記2つの症状があります。それぞれ解説します。
- 患部の腫れ
- 疼痛による跛行
なお、骨瘤といっても軽度な者から重度のものまで幅広く存在しており、発症しているものの無症状であるものや痛みを伴って歩様に異常をきたす場合など、程度は様々です。
症状の程度によって競走能力に影響を及ぼす例もあるため、早期発見と適切な対処が重要です。
患部の腫れ
患部が炎症することで、熱を持ち腫れとなって症状が出る場合があります。
これは先ほど解説したように、反復的にかけられた運動負荷によるもので、腫れているのが目視しやすいため、わかりやすい症状と言えるでしょう。
疼痛による跛行
また、患部が炎症することによって、痛みが生じる場合もあります。
その場合は歩様に異常をきたす【跛行(はこう)】が症状としてあらわれるため、患部の腫れに比べるとわかりにくく、よく観察しなければ見逃しやすい症状かもしれません。
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骨瘤の治療方法と治療期間
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トレーニング強度や休養の調節で、ある程度予防することができる骨瘤ですが、もし発症してしまった場合、どのような治療が施されるのでしょうか。
この章では骨瘤の治療方法と、完治するまでに要する期間について解説します。
骨瘤の治療方法
骨瘤の治療方法は症状の程度によって異なり、軽い順番から下記のとおりの治療が施されます。
- 運動の制限
- 患部の冷却
- レーザー治療
運動の制限
軽度な骨瘤の場合は、日々のトレーニングを軽いものに変更したり、休養やリハビリ期間を設けることで完治します。
休養やリハビリが不十分な場合は再発し、重症化し、完治が難しくなる可能性もあるため、軽度といっても日々のチェックは欠かせません。
患部の冷却
炎症を起こしている患部を冷却することも、骨瘤の治療方法として有効です。
もちろん運動の制限とともに行われるため、こちらも日々の状態の確認が必要でしょう。
レーザー治療
レーザー治療は主に、重度の骨瘤を患った場合に施される処置です。
患部に当てることで生体に吸収された際の温熱作用と、光エネルギーが化学変化を起こしたことによる発生する光化学作用により、疼痛の緩和や炎症の軽減、血行の促進が促され、回復を促進させる治療方法です。
骨瘤の治療期間
先ほど解説したように、骨瘤の治療方法は程度によって様々であるように、治療期間も数日で完治する場合から3ヶ月もかかる場合もあります。
日々の管理を徹底し、早期に発症を発見し、適切な治療方法で対処すれば、治療後も競走能力は失われず、トレーニングやレースに復帰することが可能でしょう。
骨瘤を患った名馬たち
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しっかりと完治すればまたレースに復帰できる可能性の高い骨瘤ですが、この章では骨瘤を発症した経験のある名馬を紹介します。
今回紹介する名馬は下記の2頭です。
- フィエールマン
- デュランダル
フィエールマン
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生年月日 | 2015年1月20日 |
性別 | 牡 |
父 | ディープインパクト |
母 | リュヌドール |
母父 | Green Tune |
生産牧場 | ノーザンファーム |
戦績 | 12戦5勝 |
主な勝ち鞍 | 菊花賞(G1) 2018年 天皇賞(春)(G1) 2019・2020年 |
獲得賞金 | 7億926万5,000円 |
登録抹消日 | 2021年1月8日 |
2018年にデビューからわずか4戦、史上最少キャリアで菊花賞(G1)を制し、2019年、2020年の天皇賞(春)(G1)を史上5頭目となる連覇、凱旋門賞にも出走するなど、主に長距離戦線で大きな活躍をみせたフィエールマン。
そんなフィエールマンが骨瘤を発症したのはデビュー前でした。生まれて数日で獣医から治療を受けるなど、元々体質の弱かったフィエールマンですが、その体質の弱さからデビューまでは焦らずじっくりとトレーニングを消化するプランが組まれました。
しかし、少しでもトレーニング強度を上げたりペースアップをすると、脚部に痛みを訴えるようになったのです。このことを、骨の成長が遅く調教のペースについていけないと判断した陣営は、慎重に回復を待ちました。
「能力は相当ある。考えられるケアは全部した」という陣営の強い意思と丁寧な治療のもと、フィエールマンの体調はどんどん回復・良化し、無事デビューまで漕ぎ着けます。
関わった人たちの手厚いサポートで体質の弱さという弱点を克服し、その才能を開花させたフィエールマンはその後、菊花賞を優勝しました。
骨瘤のために使い込めない体質が結果的に史上最少キャリアで菊花賞制覇という偉業につながったのです。
また、それ以外にも天皇賞(春)を連覇し、最終的にはG1を3勝を含む12戦5勝、国内レースでは一度も掲示板を外さないという堅実な競馬をみせ、2020年度最優秀4歳以上牡馬に選出されるなど、日本を代表するステイヤーとして輝きました。
デュランダル
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生年月日 | 1999年5月25日 |
性別 | 牡 |
父 | サンデーサイレンス |
母 | サワヤカプリンセス |
母父 | ノーザンテースト |
生産牧場 | 社台ファーム |
戦績 | 17戦8勝 |
主な勝ち鞍 | スプリンターズステークス(G1) 2003年 マイルチャンピオンシップ(G1)2003・2004年 |
獲得賞金 | 5億943万200円 |
登録抹消日 | 2005年11月29日 |
死去 | 2013年7月7日 |
2003年のスプリンターズステークス(G1)や、2003と2004年のマイルチャンピオンシップ(G1)など、主に短距離からマイル戦線で活躍し、最高峰から切れ味鋭い末脚で一気に他馬をまくっていくレーススタイルから【ターフの聖剣】という異名を持つデュランダル。
そんなデュランダルが骨瘤を発症したのは2001年12月、単勝オッズ1.4倍のダントツ人気に推され、その人気に応え見事勝利をおさめた新馬戦の直後でした。
デビュー戦を解消した矢先の骨瘤でしたが、およそ9ヶ月の休養ののち、2002年8月に復帰し、2着に入線すると、その後条件戦を3連勝するなど、抜群の成績を残しました。
2003年もデュランダルの快進撃は止まらず、10月のスプリンターズステークス、11月のマイルチャンピオンシップを立て続けに制覇。その年の最優秀短距離馬に選出されます。
翌年2004年は、※裂蹄(れってい)により出走したレースは少なかったものの、高松宮記念(G1)を2着、スプリンターズステークス(G1)を2着、マイルチャンピオンシップ(G1)は1着入線して連覇を達成、そして香港にて開催された香港マイル(G1)を5着など、国内外で活躍をみせ、2003年に引き続き、2004年も最優秀短距離馬に選出されました。
※裂蹄(れってい)とは
馬の蹄(ひづめ)におこる病気の一種で、馬のひづめの側面を覆っている硬い角質部分である蹄壁(ていへき)に亀裂が入った状態を指す。
骨瘤のまとめ
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ここまで、骨瘤についてその原因や症状、治療方法などとあわせ、骨瘤を患った名馬たちを解説しました。
先ほども解説したように、骨瘤は成長途中の若い馬が発症しやすいケガであり、【若駒の職業病】とも言われています。しかし、実は繋靭帯炎や骨折などの重大なケガにも直結するものでもあります。
無事デビューまで漕ぎ着けさせるための陣営の努力と苦労、そしてそれに健気に応える馬たち。競馬ファンが見られないそういったシーンがあって彼らは今を走っている、そう思うと普段何気なく見ている競馬がいつもと違って見えるかもしれませんね。