多くの競馬ファンが聞いたことがあるであろうハ行(跛行)。2024年、ラストランとして有馬記念の出走を予定していたドウデュースや、京成杯を快勝しクラシック皐月賞出走を予定していたダノンザテイルなどが、このハ行が原因で出走を回避しています。
ところで、ハ行とはいったいどのような症状なのでしょうか。
当記事ではハ行について、その症状や見分け方、治療方法を解説します。
ハ行(跛行)とは?読み方や症状、原因について
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ハ行は「はこう」と読みます。サラブレッドが患う病気やケガは多くありますが、ハ行は特定の病気やケガではなく、症状の1つと捉えられています。
それは一体どういうことなのか、この章ではハ行の症状と見分け方を解説します。
ハ行の症状
ハ行とは、歩様に異常をきたしている状態のことを言います。つまりいつもと違う歩き方になっているということです。
先ほど解説したように、ハ行そのものが特定のケガではありません。体のどこかにある痛みが原因で、その患部を庇うようにして歩くことから普段どおりの歩行ができていない状態のことを指します。
その痛みの原因はさまざまで、詳しく検査をした結果、実は屈腱炎などの重大なケガや病気が発症していたというケースが例として挙げられます。このようにハ行は病気やケガのサインでもあるのです。
また、ハ行は脚回りの痛みやケガが原因と思われがちですが、必ずしもそうとは限りません。例えばレースや調教後の首や肩、背中の筋肉痛など、軽度の痛みでもハ行が見られる場合があります。
このように、ハ行はサラブレッドにとって日常的にあらわれる症状でもあり、重大なケガや病気のサインでもあるため、決して見逃すことができない症状といえます。
ハ行の原因
先ほども解説したように、筋肉痛などの軽度の痛みから屈腱炎などの重大な病気まで、ハ行の原因は様々で、骨・筋肉・腱・関節・神経など、体のどこかに痛みや異常をきたしていることからあらわれる症状です。
そのため、ハ行が見られた当初は直接的な痛みや違和感の原因は特定できず、後の検査によってその原因が判明する場合がほとんどです。
ハ行(跛行)の見分け方
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人間が体を痛めた場合、「ここが痛い」と誰かに伝えることはできますが、馬の場合はそうはいきません。つまり、人間が馬の体の不調を知るためには馬の歩き方を見るしかないのです。
それでは、ハ行を見分けるためにはどこに注目すれば良いのでしょうか。ハ行の主な見分け方は前肢ハ行と後肢ハ行によって異なり、主に下記の点に注目しながら診断されます。
- 頭部の上下動(前肢)
- 腰の上下動(後肢)
- 球節の踏み込みの深さ(後肢)
それぞれの部位の見分け方を解説します。
頭部の上下動(前肢)
前肢に痛みがある馬の場合、歩行時に頭部の上下動に乱れが見られ、左右どちらの側が痛むのかを見分けることができます。
例えば右脚に痛みが出ている場合、右脚が地面に着地した際、負担がかからないように頭を上にあげて庇うような歩様が見られます。
腰の上下動(後肢)
後肢に痛みがある馬の場合は、腰の上下動によって左右どちらの側が痛むのかを見分けることができます。
前肢同様、痛みがある側の脚に負担をかけないように歩行するため、歩行時には腰が上がる時間に左右差が生まれます。痛みがある脚は、痛みがない脚よりも地面に接地している時間が短く、その分腰の上下動する時間は短く、上下動の大きさは大きくなる傾向にあります。
球節の踏み込みの深さ
球節とは中手骨と基節骨の間にある関節のことで、主に着地時の衝撃を和らげるクッションの役割や、走行時の前へと進む推進力を生み出す役割を担っています。
球節に見られるハ行の症状として、患部とは逆側の脚の球節の踏み込みが深くなることが挙げられます。その理由として、痛む脚は接地している時間が短いため、その分痛みの出ていない脚に体重を乗せているので、球節は深く沈みこむような歩様になります。
ハ行(跛行)の治療方法は?有効な治療方法を知るための検査について
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ハ行と一言に言ってもその原因と治療方法は様々です。
この章では、ハ行の症状があらわれている原因と、それに対する有効な治療方法を知るための検査方法を解説していきます。
ハ行の治療方法
体のどこかに痛みや違和感が生じることによって症状があらわれるハ行ですが、その症状の原因は様々で、それによって治療方法が異なります。
そのため、ハ行そのものの治療方法という概念ではなく、ハ行が見られる原因を突き止め、それに沿った有効な治療方法を探り、治療を始めていく、という表現が正しいでしょう。
例えば、ハ行が見られ検査をした結果が屈腱炎であれば、患部の冷却や休養、重度の場合は幹細胞移植などの治療方法がとられるでしょうし、軽度の筋肉痛であればトレーニングを軽くしたり放牧に出したりなどのケアが可能になります。
このように、馬の現在の状況にあわせた有効な治療方法を知るためにはさまざまな検査方法を行っています。詳しくは、次の見出しで解説します。
ハ行の検査方法
ハ行の主な検査方法は大きく分けて下記の5通りあります。
- 稟告(りんこく)
- 視診
- 歩様検査
- 触診
- 各種検査
稟告(りんこく)
検査のはじめに行われるのは稟告です。稟告とは馬の管理者からヒアリングを行い、その馬に起こり得るハ行の原因をある程度予想し、その後の視診や触診、歩様検査時の参考にすることが目的とされています。
視診
次に、実際にその馬を診て、患部に腫れやキズ、脚部の左右差がないかなどを確認します。視診では、ハ行の直接的な原因となっている部位やその疑いがある部位の目星をつけることができます。
歩様検査
歩様検査では実際に馬を歩かせて、痛みのある脚を推定します。主な検査方法は先ほど解説したように、頭や腰の上下動の違いや、球節の踏み込みの深さなどにより実際に痛みのある脚を推定、検査します。
触診
その後、傷んでいるであろう脚が腫れて熱を持っていないかを触ったり、関節を曲げてみたりして痛みの箇所を特定します。それでも痛みの箇所が特定ができなかった場合は、各関節のフレクションテスト(一定時間関節を固定し、解放後さらに歩様検査を行うこと)をし、改めて痛みの原因を探ります。
各種検査
最後に、レントゲンやエコー、局所麻酔、血液検査などの、より専門的な検査を行い、ハ行の原因を特定し、今後の治療方法を決定します。
跛行(ハ行)のまとめ
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ここまで、ハ行についての症状や原因、見分け方について解説してきました。
ハ行の原因は様々で、サラブレッドにとって日常的にあらわれる症状の1つですが、実は重大なケガや病気のサインである可能性があります。
しかしそのサインはとても小さく、見逃してしまうケースも稀にあるのが事実。ケガなくレースから戻ってくるためにも、管理者は自身の馬をよく観察して、万全の状態でレースに送り出して欲しいですね。