2024年、現4歳牝馬は素質の高い馬が多いといわれています。
その筆頭格がリバティアイランドです。
なんといっても前年の牝馬三冠レースをすべて勝利しただけではなく、そのパフォーマンスが秀でていたことから世代の価値を高めました。
牝馬三冠とは?
3歳牝馬だけが出走できる桜花賞・オークス・秋華賞の総称でいずれもG1競走です。
また、秋華賞の後に挑んだジャパンカップ(G1)で当時の世界最強馬だったイクイノックスにこそ敗れてしまいましたが2着は死守し、それ以外のG1ホースには先着したことで威厳は保てたのです。
(もっとも、斤量面で他のG1馬より恵まれていたのも事実で、同条件なら結果は変わっていたかもしれません。)
では、本当にリバティアイランド1強なのでしょうか?
そんなことはありません。
特に、2023年のローズステークス(G2)を衝撃レコードで勝利したマスクトディーヴァの存在は忘れてはいけないでしょう。
秋華賞(G1)では絶望的な位置取りから追い込みを開始し、最強牝馬リバティアイランドに肉薄した末脚は多くの人の記憶に残りました。
同時に、リバティアイランド1強のムードにテコを入れた立会人だと考えています。
さて、当記事では現在も現役で活躍しているマスクトディーヴァについて、基本的な情報と戦績、そしてその根源にある強さを解説します。
- マスクトディーヴァの基本的な情報が分かります。
- 2024年2月時点でのマスクトディーヴァの戦績が分かります。
- マスクトディーヴァの強さを解説しています。
マスクトディーヴァの概要
生年月日 | 2020年5月12日 |
性別 | 牝 |
父 | ルーラーシップ |
母 | マスクオフ |
母父 | ディープインパクト |
生産牧場 | 社台ファーム |
戦績 | 6戦3勝 |
主な勝ち鞍 | 2023年ローズステークス(G2) |
マスクトディーヴァの血統
父ルーラーシップは現役時代に香港のクイーンエリザベス2世カップ(G1)を制した非サンデーサイレンス系の馬です。
代表産駒は菊花賞馬のキセキで、朝日杯FS(G1)を制した同世代のドルチェモアもルーラーシップの仔です。
非サンデーサイレンス系の馬とは?
サンデーサイレンスの血を一切持たない馬で、この当時希少な馬でした。
母のマスクオフは末脚競馬を得意としていた馬で、生涯一度も馬券を外しませんでしたが、屈腱炎を発症したためわずか5戦でターフを去りました。
母の父ディープインパクトは誰もが知っている無敗の三冠馬で、母の母にあたるビハインドザマスクは現役時代に短距離重賞を3勝しているので父母ともに良血馬です。
マスクトディーヴァの戦績
遅咲きの3歳馬
両親、そして祖母の代にさかのぼってみても素質の高さに期待できそうなマスクトディーヴァ。
ところが、競走馬としては遅めの5月生まれということもあり、デビューしたのは3歳になってからです。
デビュー戦は1月15日、中京の芝2,000mで12頭立ての6番人気でした。
この時の中京は重馬場でしたが、道中脚を溜めながら力強く駆け抜け、母譲りの末脚でデビュー戦を勝利しました。
次走は一気に目標を高めて忘れな草賞(L)を選択しましたが、スロー展開で前有利、加えて直線入りの時点で後ろ過ぎたことも響いて7着に敗れます。
忘れな草賞の敗退で春のクラシックは断念したものの、続く1勝クラス戦では古馬相手に2馬身半の勝利をおさめ、春競馬を終えます。
知名度を高めたローズステークスの世界レコード
夏は全休し、秋の緒戦に選択したのが秋華賞トライアルであるローズステークス(G2)でした。
この年のローズステークスは春のクラシック組よりも夏の上がり馬のほうが出走頭数が多かったです。
春のクラシック組と夏の上がり馬とは?
春のクラシック組は桜花賞やオークスといった大舞台に出走歴のある馬を指します。
夏の上がり馬は夏開催のレースで結果を残し、賞金加算した馬を指します。
ところが、マスクトディーヴァはこれまで稍重以下の馬場でしか勝利がなく、時計の出る馬場は不得意という認識がされていたため7番人気の低評価でした。
そこまで注目されませんでしたが、逃げたユリーシャが1,000mを57秒3というハイペースで逃げたことで後方有利の展開になります。
マスクトディーヴァは中団でじっくり脚を溜めると最後の直線で早めに動いて残り200mの標識手前で先頭に立ちました。
後方から仕掛けた人気のブレイディヴェーグの追撃を退けて見事優勝タイトルを手にしたのです。
伏兵の台頭にも驚きましたが、掲示板に表示されたレコードの文字も衝撃的でした。
なぜなら、マスクトディーヴァの勝ち時計1分43秒0の時計はは阪神芝1,800mのみならず、世界レコードそのものを更新してしまったからです。
ちなみに、これまでの世界記録は1991年のサンタアニア競馬場でコストロマが記録した1分43秒4でした。
従来の記録を0.4秒も塗り替え、しかも32年ぶりの更新ということでその知名度は一気に全国に広まったのです。
余談ですが、この年のローズステークスでは2着に入線したブレイディヴェーグも1分43秒0の時計で入線しているので時計の出やすい高速馬場であったことは間違いないでしょう。
リバティアイランド1強ムードにテコを入れた秋華賞
ローズステークス(G1)をレコード勝ちし、なんとか最後の一冠に間に合ったマスクトディーヴァが次に挑んだのは当然秋華賞でした。
しかし、ここでの最有力馬はいうまでもなくリバティアイランドです。
リバティアイランドは桜花賞(G1)とオークス(G1)を制した二冠馬で、史上7頭目となる牝馬三冠に王手をかけていたのです。
マスクトディーヴァも3番人気に支持されていましたが、その単勝オッズは13.0倍。
リバティアイランドが断然1番人気で単勝オッズ1.1倍、単勝シェア率は驚異の67.3%だったことを考えるとほとんどの人がリバティアイランドの勝利に期待したといえるでしょう。
最後の一冠を駆けた秋華賞ではマスクトディーヴァがとった策は後方待機です。得意の追込で勝負しようと決めたのでしょう。
対して、人気のリバティアイランドは中団で待機します。
レースが動いたのは3コーナーの下り坂でした。
中団で脚を溜めていたリバティアイランドは馬群の外から一気に仕掛けたのです。
直線に入ってリバティアイランドは早くも先頭に立って後続を突き放しにかかります。
対してマスクトディーヴァは―――12番手くらいの位置でした。
直線入り口の段階でリバティアイランドとマスクトディーヴァには5馬身近く差があります。
また、秋華賞の舞台である京都芝2,000mは内回りコースを使用する関係上、直線距離が約330mしかありません。
ローズステークスの舞台である阪神外回りと違って直線一気を決めるのは容易ではないのです。
ところが、ここからマスクトディーヴァの真骨頂ともいえる豪脚が発揮されました。
絶望的な位置から一気に加速すると、上がり最速33秒5という、リバティアイランドの上がりに勝る末脚で一気に捕えにかかったのです。
さすがに物理的に厳しい位置からの追い上げだったので先着はできませんでしたが、リバティアイランドに1馬身差まで詰め寄ったのはマスクトディーヴァだけでした。
そして、3着のハーパーに2馬身半差突き放しているように、同世代の中でも実力の高さを証明したのです。
古馬緒戦に選択したのは東京新聞杯
秋華賞を終えて古馬になったマスクトディーヴァの始動戦は東京新聞杯(G3)でした。
東京新聞杯はG3競走ですが、東京の芝1,600mを舞台にするレースで、ヴィクトリアマイル(G1)や安田記念(G1)と結びつきが強いことから好メンバーが揃います。
マスクトディーヴァにとっては初めての東京遠征に加え、マイルも初めてでしたが単勝オッズ1.9倍の1番人気に支持されました。
しかしながら、久々のレースも影響してかスタートで出遅れてしまい、そこから巻き返しを図ろうとしたものの6着まででした。
出遅れがなければもっと上位争いできた可能性もあっただけに、古馬緒戦は悔しい結果となったのです。
マスクトディーヴァが強い3つの理由
2024年2月4日の時点で6戦しか使われていないマスクトディーヴァですが、限られたレースの中で常に高いパフォーマンス、そして常軌を覆す走りを見せてきました。
ここからは、マスクトディーヴァの強みを3つ解説していきます。
その①母譲りの末脚
なんといっても母マスクオフから譲り受けたその末脚がマスクトディーヴァ最大の武器でしょう。
振り返れば新馬戦からその片鱗を見せていましたが、ローズステークスでも秋華賞でも、直線に入ってからの追い上げには定評があります。
特に、レコード勝利を手にしたローズステークスでは外回りの阪神コースでラスト400mあたりでグイっと加速してそのまま後続を置き去りにしました。
このローズステークスのラップがラスト2F11秒0-1F11秒8で淀みないラップを刻めていることからトップスピードの持続性にも長けているのが分かります。
その②直線での瞬発力
マスクトディーヴァの末脚の魅力のひとつに瞬発性の高さが見られます。
明白に表れたのが秋華賞で、直線の短い京都の内回りで直線一気の競馬だけでリバティアイランドとの差を縮めることができました。
マスクトディーヴァは4コーナーを通過した段階で12番手くらいの位置で通過したものの2着入りしています。
同じ位置から仕掛けけた馬にモリアーナがいましたが、あちらが5着まで、しかもマスクトディーヴァとの差は大きかったことを考えればいかにマスクトディーヴァが強い競馬を行っていたかが分かります。
その③高速馬場も重馬場でも力を発揮できる
超高速馬場のローズステークスを制したことで高速馬場巧者のイメージがあるマスクトディーヴァ。
しかし、3歳春の時点では稍重以下の馬場でしか勝利がありませんでした。
特に、新馬戦の舞台だった1月の中京芝コースは時計のかかる重馬場でしたが、差し切りの競馬で勝利を掴んでいます。
要所の反応はやや鈍かったものの、馬場の外目からラスト1ハロンで加速して勝ち切る姿は現在のマスクトディーヴァに通じるものがありました。
どんな馬場状態でも勝ち切れている強さもマスクトディーヴァの長所といえるでしょう。
まとめ
マスクトディーヴァはリバティアイランド1強ムードの時代に台頭した牝馬です。
思えば、歴代の三冠牝馬を脅かす馬は意外と少なくありませんでした。
特に、秋華賞は桜花賞やオークスとは違った適性が求められるため、その傾向が強いです。
例えば、ジェンティルドンナにおけるヴィルシーナやアーモンドアイにおけるミッキーチャーム、デアリングタクトにおけるマジックキャッスルなど…。
三冠牝馬に対抗した馬たちはのちに重賞レースを制していることから、紛れもなく実力馬でした。
リバティアイランドを追い詰めたマスクトディーヴァも重賞級の馬であることは間違いありません。
秋まで虎視眈々と勝機をうかがった仮面の歌姫、マスクトディーヴァの今後の活躍に期待したいです。